現代映画論

東海大学文芸創作学科(湘南校舎)で「現代映画論」を講義することになりました。毎回、テーマに関連する映画を一本見て、それから講義をします。以下、概要。
科目名:現代映画論
担当者:葛生 賢
水曜日 3-4時限
3限 13:25-14:55
4限 15:10-16:40

授業のテーマ:ヌーヴェル・ヴァーグとその歴史的展開
1. 授業要旨または授業概要:
現在、われわれは映像に取り囲まれて生きています。携帯電話、パソコン、テレビのモニターを誰でも毎日数回は見ますし、街に出れば、広告を流し続ける巨大なモニターがビルの壁に設置され、電車の中にさえ、同様の小さなモニターが取り付けられています。われわれは、映像がすでに環境として存在する時代に生活しているのですが、しかし以前の時代の人々に比べ、より豊かで多様な映像を享受しているか、と問うてみた時、必ずしもそうとは言えないのではないでしょうか。むしろ、その圧倒的な量に反し、よりコントロールされ閉じられた、つまりは貧しい映像環境の中に閉じ込められてはいないでしょうか。
そこでこの講義ではまず、普段あまり目にする機会のない(つまりテレビの地上波や地方のシネコンやレンタル店では滅多にお目にかからない)現代映画の傑作の数々を見ていきます。これらに共通するのは、われわれの置かれた映像環境を「危機」として捉え、それを真摯に思考し、別の可能性を指し示す作品群だということです。
なお「現代映画」という場合の「現代」の定義については諸説ありますが、この講義ではとりあえず1960年前後を「現代」の出発点とします。具体的には、フランスで「ヌーヴェル・ヴァーグ(=新しい波)」と呼ばれる映画運動が始まった時期です。この運動自体は十年未満で終わってしまいますが、そこで開示された可能性は、今日にいたるまで世界の様々な場所で新しい映画を生み出す原動力となっています。そこで、この「現代映画論」では「新しい波」の歴史的な展開として、1960年前後から今日にいたる映画の水脈を辿り、それによってわれわれが現在置かれている映像環境を新たに思考するための視線を獲得することを目指します。
映画についての予備知識は必要としませんが、普段から各自、講義以外でも積極的に様々な時代や国の映画を見たり、それについての批評を読んだりすることが推奨されます。
2. 学習の到達目標:
1) ヌーヴェル・ヴァーグ以後の現代映画の流れを概観できること
2) 様々な映画運動の代表的な映画作家とその作品についての知識を習得すること
3) 映画の具体的な画面と音響を記述できること
4) 単なる感想文ではない、論理的な文章を書けるようになること
5) 映画を見て、映画史的な知見を踏まえつつ、その具体的な細部を手がかりに、説得力のある仕方で、自分なりに批評できること
3. 授業スケジュール:
1) ガイダンス
2) ヌーヴェル・ヴァーグ
3) ネオレアリズモ以後のイタリア映画
4) ソ連・東欧映画の新潮流
5) 1968年:政治の季節
6) 「異種の映画」
7) ニュー・ジャーマン・シネマ
8) ポスト・ヌーヴェル・ヴァーグ内向の世代
9) アメリカン・インディーズとニュー・ハリウッド
10) 台湾ニューウェイヴと中国第五世代
11) イラン・ニューシネマ
12) ソ連崩壊後のロシア映画
13) ポルトガル映画の新潮流
14) スペイン映画の新潮流
15) つねに「新しい波」
4. 教科書・参考書:
参考書 映画史を学ぶクリティカル・ワーズ 村山匡一郎編 フィルムアート社 2,100円
参考書 友よ映画よ、わがヌーヴェル・ヴァーグ山田宏一 平凡社 1680円

2011年日本映画ベストテン

先達に敬意を表し生年順。

『孤独な惑星』(筒井武文
大鹿村騒動記』(阪本順治
『kasanegafuti』(西山洋市
『旧支配者のキャロル』(高橋洋
『死ね!死ね!シネマ』(篠崎誠)
『東京公園』(青山真治
『コクリコ坂から』(宮崎吾朗
『魔法少女を忘れない』(堀禎一
『親密さ(ショートヴァージョン)』(濱口竜介)
『適切な距離』(大江崇允)

北野、黒沢、万田の新作の不在が惜しまれる。なお『サウダーヂ』(富田克也)はあえてベストから外した。面白い作品ではあったが、そこに新しさは感じられなかったため。

Happy New Year !


あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
それでは早速2011年のベストテンを。スクリーンで見たものに限定。
まずは新作映画ベスト。先達に敬意を表し、生年順。
『クレイジー・ホース』/『ボクシング・ジム』(フレデリック・ワイズマン
ヒア アフター』(クリント・イーストウッド
『汽車はふたたび故郷へ』(オタール・イオセリアーニ
アンストッパブル』(トニー・スコット
『ザ・ウォード 監禁病棟』(ジョン・カーペンター
奪命金』(ジョニー・トー
『東京公園』(青山真治
SUPER 8/スーパーエイト』(J・J・エイブラムス
ファンタスティック Mr.FOX』(ウェス・アンダーソン
ミッション:8ミニッツ』(ダンカン・ジョーンズ
次点
メカス×ゲリン 往復書簡』(ジョナス・メカスホセ・ルイス・ゲリン

次に旧作映画ベスト。製作年度順。
『掟によって』(レフ・クレショフ、1926)
『仇討膝栗毛』(森一生、1936)
『千石纏』(マキノ雅弘、1950)
『男の顔は履歴書』(加藤泰、1966)
『現代娼婦考・制服の下のうずき』(曽根中生、1974)
ナッシュビル』(ロバート・アルトマン、1975)
『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』(ニコラス・レイ、1976)
『魚影の群れ』(相米慎二、1983)
『ある革命のビデオグラム』(ハルーン・ファロッキ、1992)
『最後の手紙』(フレデリック・ワイズマン、2001)

なおコントレ賞こと新人監督賞は今年は該当者なし。代わりに『ジャックの友人』(中島信太郎)に奨励賞を授与します。

よいお年を!

大晦日なので珍しく紅白を見ながら一年を振り返ってみる。今年も色々あった。いやありすぎたといった方が正確だろう。もちろん全ては3.11の出来事に端を発している。9.11がその後の十年の参照点となったように、この出来事も今後の十年の起点となるだろう。しかもフクシマの事故はまだ収束していない。個人的なことをいえば、3.11以来、まだ自室は片づいておらず、寝袋を買って他の部屋で寝ている。片づけ作業をしながら、こんなに多くの本やdvdが自分の部屋にあったことに改めて驚くとともに、一生かかっても読んだり見たりすることの不可能なこれだけのモノが果たして自分に必要なのだろうかと生活を見直す契機となり、それはこれまでの交友関係の見直しにもつながった。またブログからTwitterに全面的に移行した一年でもあった。これだと一々見た映画のタイトルを書かなくても済むし、評価を下さなくてもいいから、作り手からうらまれずに済むという思わぬ利点もあった。今年は映画批評家としての活動がメインで、特に講演が多かった。来年以降は今年色々考えたり行動したことを踏まえて、映画作家としての活動を再開できたらいいと思っている。

『中央評論』276号「特集 映画の現在」

『中央評論』276号「特集 映画の現在」(中央大学出版部)が刊行されました。

http://www2.chuo-u.ac.jp/up/zasshi/chu-hyo-276.htm

まずこの豪華執筆陣を見よ!

http://www2.chuo-u.ac.jp/up/zasshi/chu-hyo-276.pdf

このボリュームでたったの315円(税込)!
これを編集した伊藤洋司さんはホントにエラい!
残念ながら都内の大型書店でも取り扱っているところがほとんどないので、直接、以下のサイトから注文することをオススメします。

http://www2.chuo-u.ac.jp/up/buy.htm

私もドキュメンタリー論「英国に聞け!」を寄稿していますので、よかったら読んで下さい。今年、千石カフェや神戸映画資料館で行った講演を元にしていますが、実はほとんど書き下ろしに近い内容になっています。その他、赤坂大輔さんの現代映画論とか角井誠くんのドワイヨン論とか読みどころは沢山ありますが、個人的に一番感銘を受けたのは、やはり堀禎一くんの「リミッツ・オブ・コントロール」論です。必読。堀くんの映画をもし未見で、この「リミッツ・オブ・コントロール」論を読んで彼に興味を持った人がいたら、伊藤洋司さんの「魔法少女を忘れない」論が絶好のイントロダクションになると思います。また同誌264号「特集 映画と20世紀」には堀くんの「伊藤洋司君との出会い、そして僕の修業時代」、270号「特集 日本映画」には小津安二郎論が入っていて、実に感動的な文章なのでぜひ読んで欲しいです(後者には私の溝口健二論、伊藤さんの堀禎一論も掲載されています)。なので一緒に注文しましょう。

告知です ジャック・ロジエのヴァカンス

ジャック・ロジエのヴァカンス」
8月20日(土)16:00〜17:00頃
アテネ・フランセ文化センター
講演:葛生賢(映画作家・映画批評家)
※入場自由
詳しくは http://www.athenee.net/culturalcenter/program/r/rozier.html