よいお年を!

大晦日なので一年を振り返る。映画批評家としては、今年は清水宏論とルビッチ論を書いた他は何もしていない気がする(笑)。前者は「中央評論」で既に発表されているが、後者が掲載される予定の「シネ砦」はいつ刊行されるのだろうか……。気長に待ちたい。ラジオ関西のシネマキネマさんにはとてもお世話になって、何と都合三回もラジオ出演してしまった(タチ、ムレ、ウルマーについて)。首都圏ではないタイプのとても映画愛に満ちたマニアックな番組なので、関西以外の映画好きも聴くことを強く勧める(radikoのプレミアム会員登録すれば聴ける)。私事では夏に父が亡くなった。子供の頃によく歌舞伎町に映画を見に連れて行ってもらった。父は写真を撮るのが趣味で、中学生の頃にお古の一眼レフをもらって撮影の手ほどきを受けたものだった。今こうして私が映画について書いているのもたぶんそのおかげだろう。決して映画狂ではなかったが、よく東京12チャンネルの昼の洋画を見ていた姿が思い出される。ちょっとしんみりしてしまったが、皆さんよいお年を。

オーディトリウム渋谷閉館について思ったこと

オーディトリウム渋谷がとうとう閉館した。私個人は熱心な観客ではなかったので、見たいものがかかればごくたまに行く程度で、仕事上の関わりとしては大津幸四郎氏の特集上映とケンシロウこと木村卓司氏の作品上映の際にトークをしたくらいか(ただし後者は監督本人に個人的に頼まれたのでノーギャラ)。
歳とともに渋谷から足が遠のき(これは自転車を乗るようになったことも大きい。私の住んでいる板橋からだと帰りに目白の坂を登るのがかなりキツいのだ)、この劇場はおろかヴェーラにもユーロにも今ではほとんど行かなくなってしまった。また私のようなビンボー人にとっては会員割引制度がなかったのもなかなか足が向かなかった理由の一つだった(最後の方でようやく導入されたけど)。
とはいえここ数年における現代日本のインディペンデント映画の隆盛を陰で支えてきたのはやはりこの劇場だったと思う(特に首都圏において)。この事実を後世の映画史家は決して忘れてはならないだろう(マジで)。
支配人の千浦くんとは彼が映画美学校の映写技師をしていた頃からの付き合いで、校舎が京橋(今、東京スクエアガーデンが建っている辺り)にあった時は、よく地下の映写室で当時未公開だった映画の上映会(モンテイロファスビンダーターナーなど)の映写をやってもらった。なので、かれこれ十年くらいになるか。最近も結婚祝いを送ったり送られたりしたが、たぶんお互いそんなことになるとは考えていなかったはず(笑)。
で、話はオーディトリウムに戻るのだが、この劇場がオープンしたのが2011年の震災直後(その前はTSUTAYAか何かの系列の劇場だった)で、震災の日には帰宅困難者のための仮眠所としてまだオープン前の館内を開放したと聞く。経営側の都合も色々あるとは思うが、そんな来歴のある劇場がこの時点で突然打切りになってしまうというのも、3.11をなかったことにしようというような今の社会の雰囲気にどことなくマッチしているようで(単なる偶然だとは思うが)とても皮肉だ。とはいえ、支配人の千浦くんには心から「お疲れさま!」と言いたい。彼のツイートから相当過酷な労働環境だったのではないかと察せられたので。
最後に私事で恐縮だが、拙作『吉野葛』が撮られて今年でちょうど十年目になる。関西では数年前に何度か上映する機会があったのだが、東京ではほとんどお見せする機会のないこの作品をかけてくれそうな場所はどこかと考えた場合、心あたりとしてはやはりこの劇場くらいしか思い当たらない。近いうち千浦くんに話を持ちかけてみようと思いつつ、ぐずぐずしてついに言いそびれてしまった。これで更にまた上映の機会が遠のいてしまったのが実に心残りだ。
(追記)そういえば第二回映画美学校映画祭での『吉野葛』 初上映の際の映写担当も千浦くんだった。以前書いたこともあるが、この初上映は上映後もしばらく客電(劇場灯)がつかなかったことや(上映中、千浦くんと客電担当の人が寝ていたため・笑)、またその直後のトークでの高橋洋さんと村上賢司さんによる拙作への酷評など、この作品のその後の運命を暗示していたようで、忘れがたい思い出である。また京橋の地下で海老根剛さんに協力いただいてこの作品のささやかな上映会をした時も千浦くんが映写を担当してくれた。というわけで何気にこの作品は彼との縁が深い。実は千浦くんと交流するきっかけになったのも、彼の作品を私が批判し、返す刀で彼に拙作を批判されたのがきっかけだった。さらに彼は神戸ファッション美術館ストローブ=ユイレ作品の日本初の特集上映が行われた時の映写技師でもあるので、そういう人に映写をしてもらったのは個人的にとても光栄なことだ。

現代映画論

昨年に引き続き、東海大学文芸創作科(湘南校舎)で「現代映画論」を講義します。毎回、テーマに関連する映画を一本見て、それから講義をします。

概要は昨年と同様なので、以下をご覧下さい。

なお、教室が2W-101(2号館西側1階1番教室)に変わったのでご注意下さい。


映画史入門

昨年に引き続き、東海大学文芸創作科(湘南校舎)で「映画史入門」を講義します。毎回、テーマに関連する映画を一本見て、それから講義をします。

概要は昨年と同様なので、以下をご覧下さい。

※なお今年は教室が2W-101(2号館西側1階1番教室)に変更になったのでご注意下さい。

http://hj3s-kzu.hatenablog.com/entry/2013/04/10/000000


Happy New Year !

f:id:hj3s-kzu:20140102033033j:plain

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

それでは早速2013年のベストテンを。新作、旧作ともにスクリーンで見たものに限定。

まずは新作映画ベスト。先達に敬意を表し、生年順。

『パッション』(ブライアン・デ・パルマ

『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』(ジム・ジャームッシュ

『グランド・マスター』(ウォン・カーウァイ

『3人のアンヌ』(ホン・サンス

『ホーリー・モーターズ』(レオス・カラックス)

ジャンゴ 繋がれざる者』(クエンティン・タランティーノ

共喰い』(青山真治

ウルヴァリン: SAMURAI』(ジェームズ・マンゴールド

ムーンライズ・キングダム』(ウェス・アンダーソン

『熱波』(ミゲル・ゴメス)

次に旧作映画ベスト。製作年度順。

『毒流』(ロイス・ウェバー、1916)

『二人のブルディ』(レフ・クレショフ、1929)

『不思議なヴィクトル氏』(ジャン・グレミヨン、1938)

『檜舞台』(豊田四郎、1946)

『大佛さまと子供たち』(清水宏、1952)

ベルトルッチの分身』(ベルナルド・ベルトルッチ、1968)

『侵入』(ウーゴ・サンチャゴ、1969)

『あやつり糸の世界』(ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、1973)

『キョート・マイ・マザーズ・プレイス』(大島渚、1991)

『YOUNG YAKUZA』(ジャン=ピエール・リモザン、2007)

そしてコントレ賞こと新人監督賞は『愛を語るときに、語らないこと』(モーリー・スルヤ)に決定!

 

よいお年を!

この一年を振り返ってみる。大学での講義は二年目に入り、現代映画論の他に映画史入門が加わり、さらにゼミを担当するようになった。批評家としての仕事は春にリュック・ムレについて二度目の講演をした他は、つい先日、清水宏論を書き上げたくらいか(来春「シネ砦」に掲載予定)。プライベートでは結婚し新居を構えたが、まさか自分がそうなるとは数年前までは考えもしなかった。人生何が起こるかわからないものだ。世の中はどんどん厭な方向へ向かっているが負けずに頑張って行きたい。

現代映画論

昨年に引き続き、東海大学文芸創作学科(湘南校舎)で「現代映画論」を講義します。毎回、テーマに関連する映画を一本見て、それから講義をします。

概要は昨年と同様なので、以下をご覧下さい。

http://hj3s-kzu.hatenablog.com/entry/20120926

授業スケジュールを若干変えたので以下に挙げておきます。

1. ガイダンス/アンドレ・バザンと作家政策

2. ヌーヴェル・ヴァーグ

3. ネオレアリズモ以後のイタリア映画

4. ソ連・東欧映画の新潮流

5. 政治的モダニズム第三世界の映画

6. ダイレクト・シネマ/シネマ・ヴェリテ

7. ニュー・ジャーマン・シネマ

8. ポスト・ヌーヴェル・ヴァーグ

9. アメリカン・インディーズとニュー・ハリウッド

10. 台湾ニューウェイヴと中国第五世代

11. イラン・ニューシネマ

12. ソ連崩壊後のロシア映画

13. ポルトガル映画の新潮流

14. スペイン映画の新潮流

15. つねに「新しい波」