鉄西区 第1部

hj3s-kzu2004-04-02

a)『鉄西区 第1部:工場』(ワン・ビン

ハイテク関連やインターネット株の上場をラジオが告げる。それを聞くともなしに聞いている労働者たちはそうした市場の流行からは取り残された人々である。グリーンを基調とした彼らの休憩室からやおら一人が立ち上がって、やはり緑のドアから出ていくのをキャメラは背後から追う。扉を開くと今までの空間の色彩からは正反対の真っ赤な照明に照らし出された燃えるような空間が奥まで続いている。そこは銅電解プラントなのだ。男は見渡す限りずらりと並んだおそらくは銅板であろうものを、ところどころ引き抜いては何やら子細に検査する。
あるいは次のような場面。天井の低い休憩室で男たちが卓を囲んでカード遊びに興じている。そこはロッカー室も兼ねていて、風呂上がりの男たちが全裸でその空間を行き交う。その光景をキャメラは固定画面で捉え続けるのだが、卓を囲む男の一人と、そのゲームに参加しようとはしない男との間で口論が始まる。初めは軽い冗談の交わし合いだったはずのものが、徐々に深刻さを増し、ついには殴り合いにまで発展する。キャメラはその過程をやはり先ほどの固定画面のまま捉えているので、ゲームに参加しない方の男の声は画面の外から聞こえてくるだけだ。しかし事態がやや緊迫の度を増した瞬間、それまで微動だにしなかったはずのキャメラが急に右90度パンする。するとそこには画面外の声の主が今度はオフの空間になってしまった先ほどの卓に向かって鋭い視線と激しい言葉を投げかけているのだが、たちまち口論の相手がフレームに入ってきて男に掴みかかる。二人はそのままもつれ合いながら、すぐそばのドアの向こうに消えていく。他の男たちは喧嘩を止めるために次々と二人の後を追うので、画面は彼らの背中で埋め尽くされてしまう。パンの後、そのまま静止していたキャメラが今度は彼らの後を追って手持ちの前進移動を始める。ドアの外を出ると廊下で二人がつかみ合いをし、他のものがそれを制止しているのだが、その様子は人々の背中越しに垣間見えるだけで、激しい怒声から事態を判断するしかない。やがて二人は引き離され、一人が他の部屋の隅へとぶつぶつと独り言を呟きながら消えていく。その様をキャメラは角越しに盗み見るように撮影する。
最初にあげたシーンからは、ほとんど鈴木清順(!)ばりの色彩感覚が伺えるし、次にあげたシーンからは事件を誘発するかのようなキャメラ・ポジションへの揺るぎない確信が見受けられる。そして全編、こうした刺激と退屈との奇妙な混交からこの作品は構成されている。だらだらとした休憩室での会話、工場内での突発事故、工場の閉鎖、保養所での水死体。全てが等価のものとして彼らの日常を支配している。この点に関して印象的なのは、夜中に池に魚を捕りにいって誤って溺れ死んだとされる男の亡骸を担架で運びだす仲間たちがキャメラに気づいて見せるやれやれといった感じの笑顔である。

鉄西区』東京上映会@アテネ・フランセ文化センター
http://www.athenee.net/culturalcenter/schedule/2004_04/tetsunishi02.html