サンティアゴ・アルバレス選集ほか

a)『ハノイ13日火曜日』『79歳の春』(サンティアゴアルバレス
一輪の花が咲く。そのクローズアップが数ショット続いたあとに、画面はその位置に地上に落下しつつある黒い物体の後部の羽根がまるで先ほどの花のように花開いている様を映し出す。それはゆっくりとゆっくりと時間をかけて地上に到達し、到達したかと思うとその瞬間、あたりに閃光とともに火焔を広げていく。ナパーム弾。その一語がとっさに記憶の底から浮上してくる。鮮烈な幕開けだ。
あるいは整列させられた少年少女たちが大きな口を開けて皆泣いている。画面からは彼らの声は聞こえない。また壇上の軍人たちも泣いている。老婆も泣いている。ホー・チ・ミン。彼は永遠にこの地上から姿を消してしまったのだなと思う。そしてこの映画は彼の事蹟を記録映画の断片をモンタージュして見せていく。フランス共産党創設に参加(!)し、日本のファシストとの闘いを経て、フランス植民地軍にディエン・ビエン・フーで勝利するまで。そして最後の戦闘を表象する画面は、そこで描かれるべきものがしばしば表象の臨界を超えているとでもいうかのように、もはや画面の連鎖自体のたがが外れかけている。

b)『影に怯えて』(トム・フォーマン)
ロン・チャーニー演じる中国人の洗濯屋は桟橋に繋いだ小船の中に生活している。臨終間際の彼はその死を見届けるために集まった隣人たちを船から去らせる。最後に残ったアシスタントの少年に愛猫をバスケットに入れて手渡し、がらんどうになった室内に彼は一人きりでベッドに横たわる。その時、嵐がやってきて、彼の小船を繋いでいたロープが解ける。風は小船を夜の海に運んでいく。それを見ていた誰かが呟く。「彼は中国に帰って行くんだ」。このラストシーンを見て『ニックス・ムーヴィー/水上の稲妻』を思い出さずにいることは難しい。

c)『海上の猛獅子』(ローランド・V・リー)
実際に海上で撮られたと思しき船の甲板の記録映画的な生々しい画面の質感が素晴らしい。