サンチアゴ・アルバレスを見逃す

hj3s-kzu2004-04-18

フィルム・センターで16時の回から上映のサンチアゴ・アルバレスとトマス・グティエレス・アレアの短編を楽しみに通常通り家を出たのだが、電車に乗っていやに進み具合が遅いなと感じ、そういえば今日は日曜なので快速はないのだということに思い至る。いかん間に合わぬと焦ったのだが、東京駅に着いたのがすでに15時53分で、もちろん全力疾走なのだった。信号無視を重ね、フィルムセンターのエレベーター前に着いたのが16時30秒(「分」ではなく「秒」である)。普段はめている腕時計はGショックの電波時計で、液晶表示を見るとキチンとアンテナが立っていたので時刻は厳密に正確である。さてエレベーター前では警備員の老人が背を向けて柵を設置しているところだった。「入れません」というので、そんなことはないだろう。まだ30秒しか経っていないし、今までの経験上、この位だったら普段入れてもらっている。喧嘩している暇はないのだ、映画が始まってしまうと思い、彼の制止の言葉を無視し、もう一台のエレベーターに乗ると、あいにくと、こちらは上映ホールには通じていない。さらにダッシュし、今度は、すでに立てられていた柵越しに、階段へと通じるドアのノブに手をかけたが、その瞬間またもや老人は今度は声を荒げて「入れません」というのだった。こちらもカチンときて、彼の方を睨みつつ何か言いかけようとし、事態は一触即発の様相を呈し始めたのだが、さっきから二人のやりとりを離れたところから窺っていた受付嬢がただならぬ気配を感じ取って切迫感のある声で「お客様!」と呼びかけるので、仕方なくこちらも怒りを抑えつつ、一度舌打ちをしてからフィルムセンターを出る。走って喉が渇いたので、角のam/pmでミネラルウォーターを買い、まさに通りを挟んでフィルムセンターの真正面にあるメトロリンク日本橋の停留所でバスを待っていると、私の数分後に道路を渡ってフィルムセンターに入っていった、おそらくラテン系と思われる外国人の一団がやはり締め出しを食らったのであろう、道路を横断して側に停めてあった自家用車で去っていた。こちらはまだ興奮冷めやらず、つらつら考えていると、『最後の人』(F.W.ムルナウ)を思わせもするあの六十歳位の老人が一人で鉄扉を締め、エレベーターのボタンに蓋をし、柵を二カ所に設置するという動作をたったの30秒のうちに出来るとは考えにくい、ということにふと気づいた。ということは彼はその作業を16時少し前から始めていた可能性が考えられる。そこまで考えて一層腹が立ったところで、ゆっくりとバスがこちらにやってきた。
映画はそれ自身、「運動」であり、かつ「運動」を誘発するものであるはずだ。だとするなら「規則」に厳密であることで事足れりとするあの警備員の態度は、「運動」を阻止するという点で「反映画的」な振る舞いなのではなかろうか(もっとも彼は別の「運動」を私に誘発させたわけだが)。しかも今日上映の映画は「抵抗」することについての映画である。ついでに言えばあのラテン系の一群が仮にキューバ人だとしたら(大いにありうることだ)、彼らは異国の地で自国の映画を享受する楽しみ(しかも我が国ではキューバ映画を日常スクリーンで見る機会はほとんどない)を「規則」の名の下に奪われたことになる。
かつてジャン=リュック・ゴダールは映画館にぶらりと途中から入って十数分したらまた出ていくのが習慣だったらしいことを以前何かで読んだことがある。そのような行為は日本を代表するこの映画上映施設では許されない。そこであえて理不尽と知りつつ宣言する、映画よりも「規則」を重視するような人間は映画の敵である。
キューバ映画への旅@フィルムセンター
http://www.momat.go.jp/FC/NFC_Calendar/2004-04/kaisetsu.html