再びペドロ・コスタに会う

hj3s-kzu2004-05-10

今日はジャンヌ・バリバールの朗読会に行く。不粋な人間なのでこの手のものには普段、足を運ばないのだが、何といってもジャンヌ・バリバールである。これは行かねばならない。共演は山崎直子さん。テクストはピエール・アルフェリの小説からの抜粋。「朗読会」としてこちらがイメージしていたものを良い意味で大きく裏切って、これはほとんど「演劇」であった。語り手である子供の目から見た、ある殺人未遂の現場の光景を、ヌーヴォー・ロマンというか泉鏡花というかフローベールというか、つまり細部の描写を緻密に描いていくことで、「活人画」のように登場人物たちの動きは静止し、あるいは微分化され、物語は遅延していく、そのようなテクストを舞台上の二人のミューズはそれぞれの母国語で、ある時は交互に、ある時は同時に、しなやかな身体の動きを交えながら、真っ白なスクリーンの前で、そこに自身の影を投影しながら、語っていく。それにしてもジャンヌ・バリバールの声の肌理の素晴らしさといったら!とてもこの世のものとは思えない。基調は低音なのだが、ふるえながらもややかすれつつ丸みを帯びた高音がその声を明確に輪郭づける、とでも言おうか。だがこんな言葉ではあの声の魅力を表現したことには全くならない。ここはぜひ明日のライブに行って確かめてもらいたいものだ。ただ残念なのは、おそらく準備のための時間があまりなかったためであろう。この「演劇」はあまり成功しているようには思えなかった(あくまでも素人の意見だが)。
出口でid:Godardと今見たものの感想を話していると、ペドロ・コスタが側にいたので挨拶をし、再び立ち話をする。まずこの間、話していた黒澤明の作品は『リア王』ではなくて、『マクベス』の翻案でしたと説明すると、「なるほどね」という顔をした。コスタが「今のやつどうだった」と聞くので、「まあまあ」と答え、「あなたはどうでしたか」とこちらが聞き返すと、「うーん、演劇は分からん」と言うので、「実は自分も」と相槌を打った。
その後、テラスでレセプションがあり、id:Godardともども杉原氏に連れていってもらう。基本的にこういったパーティーのようなものは苦手なので、とりあえず食べ物をゲットしようと列に並ぶと、映画美学校の女友達二人がいたので、ほっとする。聞けば、彼女たちはコスタの撮影隊の一員だそうで(うらやましい!)、今日も昼間に谷中までロケに行ってきたそうだ。旨い飯を食い、ワインも飲んでいい気分になりつつ、初対面の「アトリエ・マニューク」の岡田氏や「nobody」の須藤氏(ナイスガイ)などと歓談していると(お二人とも当サイトを読んでいたことが判明し恐縮)、鵜飼哲氏が同じ卓に座られ、映像と天皇制の関係についての話などで盛り上がったりしながら、楽しい夜は更けていったのであった。