ジャンヌ・バリバールを見る

hj3s-kzu2004-05-11

今日は吉祥寺にジャンヌ・バリバールのライブを見に行く。てっきり19時に開演だと思っていたのだが、実際は19時開場、20時開演なのだった。おかげで早く着いてしまい。かなり前の方に陣取ることができた。ジンジャー・エールを手に赤坂氏と語らいつつ、なかなか始まらないので、ボーっとホールを眺め廻してみると少なくとも三脚に据えられたキャメラが三台、その他に何も載っていない三脚が二つあった(実際はもっと多いかもしれない)。ステージの左右に一台ずつセッティングしてあり、さらにステージ正面の2、3メートル離れたところに、足を全開に伸ばした三脚があり、その上に小さなDVカメラがちょこんと載っている。おそらくこの中央のキャメラこそペドロ・コスタが『ヴァンダの部屋』を撮るのに使ったものだろう。左右のサブのキャメラの方が高いものを使っているのが面白い。コスタはといえば舞台の左側で撮影スタッフに指示を与えている。通訳抜きで意思疎通できているところが頼もしい。しかし主人が不在の中央のキャメラは置き去りにされたままで、フロアもそうこうしているうちに混み混みになってきたので、眺めているこちらとしては、客が誤って三脚にぶつかってキャメラが落っこちないとも限らないのでハラハラする。そういえば『小津安二郎物語』で厚田雄春キャメラマンならぬ「キャメラ番」ということを言っていたが、そういう人はいないのだろうか、などと小心者の私はついついそんなことを考えてしまった。気が付くと20時をかなり過ぎており、荷物の置き場もなく、窮屈で足も疲れてきたので、しばらくライブに行ったりしていない身としては、早くも帰りたい気分になってくる。さらに十数分が経過し、ようやくライブが始まる。
ライブは予想を大きく上回る素晴らしいものだった。彼女の『Paramour』は、トータス、カーラ・ブルーニの新譜とともにiPodに入れてヘヴィーローテーションで愛聴しているのだが、実際、素晴らしいアルバムではあるものの、ボーカルを前面に出しているために、バックの演奏の音量が控えめな感じがして、少しもの足りなかった。しかし、ライブとなるとやはり全然印象が違う。ちょっとスターリング・ヘイドン似のロドルフ・ビュルジェのギターはロケンロールしていてめちゃめちゃかっこいい。ジャンヌ・バリバールの歌声も、いろいろと意見は別れるだろうが、私は素晴らしいと思った。左肩と胸元の大きく開いた黒のセーター、色褪せたジーンズ、赤いブーツ(足元は大きく足を上げた瞬間に赤い踵がちらっと見えただけなのでよく分からない)の彼女はステージをとても楽しんでいるようだった。ジーンズに親指をひっかけて下にややずり下げたり、おなかの辺りに手を添えてセーターをめくり上げたりといった悩殺ポーズもあり、おかげで彼女の左胸の上にあるホクロや彼女のおへそがしっかり目に焼き付いてしまいました。気が付けばコスタもいつの間にかかなりステージのすぐ側にまで接近している。中盤あたりで『映画史』からの例のゴダールの声のサンプリング(「何も変えるな、全てを変えるために」―ロベール・ブレッソン『シネマトグラフ覚書』)が響きわたる中、彼女が煙草の煙をフーッと吐いて、おもむろに歌い出すあたりは、文字通り「役者やなあ」と思いつつ、カッコよかった。何故か煙草を指に挟んでだらりと下げた彼女の左手が小刻みに震えていたのだが。結局、二度もアンコールを歌ったのだが、持ち歌がもともと少ないせいか、すでに歌った曲を二度ほど歌ったような気がする。
さてライブが終わり、まただらだらしていると、赤坂さんが飲み会に行くと言うので、昨日に引き続き一緒についていった。主賓はまだ来ておらず、真ん中のテーブルはすでに埋まっているので、赤坂氏、杉原氏、私の三人は別のテーブルで離れて寂しく飲んでいた。赤坂氏はもちろん映画に関する造詣が大変深いお方なのだが、ジャズにも大変詳しいことが判明する。私たちのテーブルはこの三人以外座っていなかったのだが、そこへペドロ・コスタジャンヌ・バリバール御一同様が到着し、あっという間に私たちが座っていたテーブルはセレブな方々でいっぱいになり、周縁が中心となってしまったのだった。私の目の前にジャンヌ・バリバールとピエール・アルフェリ、左横にロドルフ・ビュルジェ、そのさらに横にペドロ・コスタが座った日にゃどうしようかと思いましたよ。取りあえず「カンパーイ」などと日本語で彼らが言うので、それに合わせてこちらも調子よくバリバールらとグラスを合わせつつ、しばらく話に耳を傾けていたのだが、バンドの他のメンバーが後から到着したので、こんなに良い席を占領していても悪いと思い、電車もそろそろなくなる頃だし、居酒屋をあとにした。アテネフランセの松本さんと歓談しながら神田まで御一緒し、酔い覚ましに改札の側にあるコンビニでポカリスエットを買って飲み、家に着いたのは午前一時なのだった。
明日もロドルフ・ビュルジェのバンドのライブが南青山であり、今日聴いた彼の演奏が素晴らしかったので、日仏に『オランダの光』(ピーター=リム・デクローン)を見に行くつもりだったのが、かなり心が揺らいでいる。なお、ジャンヌ・バリバールもゲスト出演するらしいので、今日のライブを見逃してしまった人はぜひ。