万国のプロレタリアよ団結せよ

a)『北緯17度』(ヨリス・イヴェンス&マルセリーヌ・ロリダン)
b)『あの武器で何をしたのか?』(ジョアン・セーザル・モンテイロ
a)絶えずどこかでアメリカ軍の空爆の音が聞こえる。もちろんそれは記録映像にあとからダビングされたものなのだが、当時、北ヴェトナムで生活していた人々にとってのそれは実感なのだろう。戦争=日常、あるいは日常としての戦争を彼らは生きている。生活におけるあらゆる要素は来るべき勝利に向けて組織化される。防空壕を掘る。敵の不発弾を分解してガリ版印刷機を作る。武術の訓練が行われ、敵兵をホールドアップされるために子供達に英語教育がなされる。彼らが地中深く掘っていく穴は、私たちが小川紳介の『三里塚』シリーズのどこかで見た穴でもある。抵抗=穴。
b)モンテイロ本人がタイトルバックで、私たちに向って中指を突き立てる。古城に設置された大昔の大砲が海上に浮かぶアメリカの軍艦に狙いを定める。とその時、リスボン港に吸血鬼ノスフェラトゥが到着する。彼が乗ってきたのはその軍艦だ。彼はポルトガルにペストをまき散らす気なのだろう。インタビュアーが擦れ違い様にボートの上の軍服を着たアメリカ人たちに向って呼び掛ける。「あなたは民主主義を信じていますか」。そのうちの一人の黒人が戸惑いながら答える。「分からない」と。カーネーション革命の翌年のポルトガルの人々、そしてそこに駐留し祖国に帰ろうとしているNATO軍の人々にキャメラが向けられ、インタビューがなされるが、それらの映像は断片的かつ分裂症的である。労働者のデモ、娼婦らしき女をナンパする軍人。剣と盾を手にし、鎧に身を包んだ女神が唐突に古城に出現する。1975年のポルトガルの混乱をそのまま自らの混乱として引き受けたドキュメンタリー。