パルチザン前史

hj3s-kzu2004-07-24

a)『パルチザン前史』(土本典昭
a) ヘルメットを被りタオルで顔を隠した若い男たちが鉄パイプを持ってドラム缶に向かって突撃訓練をしている。それも真っ昼間の大学構内で。あるいは火炎瓶の製造工程が詳しく描写され、完成したばかりのそれは、「実験」という字幕の後、夜の校舎で実際に炎を上げる。あるいは鉄パイプをテコのように使って、彼らは器用に階段教室の机を次々に外していく。今から三十年ほど前に京大で撮影された光景である。「パルチザン五人組」と呼ばれる組織のリーダー格の滝田修が分刻みのスケジュールを組んで、仲間たちと訓練を開始することになったのだが、冗談半分というか初めは遊び感覚だったのだろう、掛け声を上げて夜の構内をランニングする彼らの顔にはうすら笑いが浮かんでいる。初めのうちは私たちもそうした彼らのどこか喜劇的な様子を笑いながら見ているのだが、だんだんとそれが笑えないものになってくる。作品のクライマックスともいうべき夏の夜の街路での機動隊との市街戦。両者はかなりの距離をおいて進退を繰り返す。彼らは警官に向かって火炎瓶を投げ、投石する。一方、警官たちは催涙弾を発砲しているのか、威嚇射撃をしてるのか、発砲音が聞こえ、彼らの上空に白い煙が立ち上っている。学生たちと警官の他には誰もいなくなった大通りでは、数台の車が横転し炎上している。モノクロームの画面で、辺りを明るくしつつ闇夜に燃え上がるその炎はとても美しい。この闘争の途中で学生たちが突然ジグザク行進を始める。その画面に、ぼやきとも反省ともつかない感じで、「(闘争の最中に)こんなことしたらアカンよ絶対」とおそらくこのラッシュをみている滝田らのオフの声が被さり、語っている本人たちの真剣さとは裏腹に私たちはまた爆笑の渦に巻き込まれるのだった。そしてラスト近く、唐突に予備校の教室が映し出される。何かと思えば滝田は副業で予備校講師をしているのだ。「大学解体」を普段唱えながら、予備校生たちを大学に送り込もうとするこの矛盾。その長口上が本人から生徒たちに向って語られる。それも授業中に。生徒にしてみればいい迷惑である。だがその語り口には人間くさい魅力がないわけではない。おそらく彼は名物講師だったのだろう。その話を聞きに教室の外に立ち見のものまでいる。一人の生徒から質問が発せられる。じゃあ何故、先生はここでこんなことしているんですか。それに対して彼が自分の大学での給料の手取りがいくらいくらで、自分には妻と二人の子供がいて、幼稚園の学費がいくらで、と説明し始めるのも可笑しい。この人物、誰かに似ていると上映中ずっと考えていて、途中でそれがメガネとヒゲをつけた今田耕司であることに気づいた。声や喋り方もそっくりである。それに気づいてから、彼が「革命」とか「主体性」とか話し出す度に笑いを堪えるのに苦労したことは言うまでもない。