土本典昭を見てアラノヴィッチを思う

a)『ひろしまを見たひと―原爆の図丸木美術館―』『ビデオ絵本 ひろしまのピカ』(土本典昭
b)『よみがえれカレーズ』(土本典昭
c)『存亡の海、オホーツク−8mm旅日記 ロシア漁民世界をめぐる』(土本典昭

a) 前者の冒頭で、いきなりネーナの「ロックバルーンは99」が流れてきたので思わずたじろぐ。後者は小室等の歌が山場になると流れてくる…『水俣の図・物語』は武満徹、『原発切抜帖』『海盗り』は高橋悠治が音楽だったのだが。
c)10年ほど前にNHK教育で放送されたものだが、オンエア時にはついていたはずのナレーションが今日の上映では何故かごっそり抜け落ちていた。よってロシア人が延々、母国語で話しているショットが無字幕だったり、何の説明もないままに地図が映し出されたりする間の抜けた瞬間がある。しかしこうした欠陥はそれほど欠陥とも思えず、逆に面白かった。『ドキュメント路上』や『パルチザン前史』の頃の説明を排したぶっきらぼうさが個人的にはかなり好きだし、テレビ番組でよくあるように外国人が何かを語っているショットに日本語のナレーションや字幕が付けられることで、それが情報として消費されてしまうことに常々いら立ちを覚えていたからだ。おそらくオンエア時にはこれらのショットもテレビ局の手によって情報として処理されてしまったのかもしれないが、今回、偶然の「事故」によって、ショットがショット本来の固有性を取り戻したことは映画にとっては喜ばしいことだ。これに比べればロシア人が語っている内容が分からないことなど些末な事に過ぎない(まあ分かるに越したことはないが)。題名にあるように、この作品は「8mm」(といってもビデオの方)で撮られている。今日のようにDVキャメラが普及する前に民生用として一世を風靡したビデオキャメラなわけだが、DVほど画質が鮮明でない分、いい感じにボケ味が出ていて、テレビで見ると荒く感じるかもしれないが、スクリーンで観るにはDVよりいいかも。といっても撮影の大津幸四郎の見事なキャメラワークによるところが大きいわけだが。こういう作品を見ると自分でも何か撮りたくなるという意味で人を映画に向わせる素晴らしい小品。ただしナレーションが付くと印象がずいぶん変わると思われる。『アイランズ/島々』(セミョーン・アラノヴィッチ)の日本編はやはりこの人に撮って欲しかった。