練習は有益でした

a)『ムーンフリート』(フリッツ・ラング
b)『マリアのお雪』(溝口健二
b)『映画への不実なる誘い』を読んで無性に見たくなったので、十数年ぶりに見直す。内容をすっかり忘れていたので、まっさらな心持ちで見れた。改めて、こんな傑作だったのか!といまさらながら驚く。ストローブが以前インタビューで溝口のことを「マルクス主義的映画作家」と呼んでいて、それを読んだ時におやと首を傾げたもので(というのもこの人ほど政治的な振幅の激しかった人もいないだろうから)、おそらく『浪華悲歌』や『祇園の姉妹』あたりのことを言っているんだろうと漠然に考えていたのだが、殊によると彼はこの作品のことを考えていたのかもしれない。*1それにしても1930年代の溝口は何と素晴らしいのだろう。「ワンシーン=ワンショット」という紋切り型から解放された映画作家がここにはいる。もちろん同時代の映画作家に比べるとショットの持続時間はやや長いのだが、そんなことよりもデクパージュの見事さに注目すべきである。例えば山田五十鈴が官軍の士官を誘惑する場面での、イマジナリーラインに対して垂直に180度切り返されたキャメラ・ポジションの的確さと経済性、そこに醸し出されるエロスを見よ!そして、こうした屋内場面の撮り方(被写体たちに対して斜めの軸から広角レンズを使う)はストローブ=ユイレの作品の屋内場面の撮り方に通じるものがあると思う。

*1:実は『山椒大夫』についてのコメントだった。