Bucking Broadway!

hj3s-kzu2005-01-11

a)『栄光』(ラオール・ウォルシュ
b)『メーベルの劇的な半生』(マック・セネット)
c)『颱風』(レジナルド・バーカー)
d)『鄙より都会へ』(ジョン・フォード
d)フランスの映画雑誌「cinema 08」の付録DVD。2000年にパリのCNC(国立映画センター)のアーカイヴで発見・修復されたもので、ジョン・フォードの9番目の作品。現存するフォードのフィルムとしては『誉の名手』の次に古い(ともに1917年製作)。いわゆる「シャイアン・ケリー」もののひとつ。
ワイオミング州の牧場でハリー・ケリーは仲間のカウボーイたちと一緒に働いている。彼は牧場主の娘に恋をしている。ある日、ハリーは新築した家に彼女を招待し結婚を申し込む(暗がりにランプの火を点す動作からこの素晴らしいシーンは始まる)。彼女の父親も快諾し、二人は婚約する。そんなある日、ニューヨークから牧畜バイヤーが自動車に乗って牧場にやってくる。都会的なバイヤーの息子は牧場主の娘の心を捉え、言葉巧みに彼女を誘惑する。ハリーと牧場主の娘の結婚式の当日の朝、なかなか姿を現さない彼女を不審に思った父親が部屋の前まで行くと、そこにはバイヤーの息子とニューヨークに行く旨の置き手紙があった。落胆するハリーと牧場主。その時、ニューヨーク行の列車の中では、早くも自分の軽率な行動に悩む彼女の姿があった。娘を失って牧場主は家にひき籠りがちになる。そんな姿を見て、ハリーは彼女を連れ戻そうと決意する。駅に着くと彼女に贈った木彫のハートのペンダントが送り返されていた。彼の脇を列車が通過していくので、ハリーは馬で追いかけて飛び移る(ここも素晴らしい)。ニューヨークに着いて、途方に暮れる田舎者のハリーは、スリのカップルから財布を盗まれるが、彼の話に同情した女スリは、盗んだ財布をそっと彼のポケットに返したばかりか、捜索に一肌脱ぐことになる。ある高級ホテルのテラスでバイヤーの息子と牧場主の娘の婚約披露が行われる。バイヤーの息子には酒乱の気があって、酔った彼は突然暴れだす。偶然居合わせた(!)スリのカップルは彼女を発見するやハリーに連絡する。ハリーは、馬の運搬でニューヨークに来ているはずの仲間たちに連絡するよう女スリに頼む。ハリーも交えてさらにホテルでの乱闘は続く。急報を受けたハリーの仲間たちは馬に乗ってブロードウェイを駆け抜けていく(まさにBucking Broadway!カウボーイを乗せてニューヨークの大通りを駆け抜ける馬の一群を後退移動で捉えたショットは運動感に満ちあふれていて素晴らしい。サイレントの画面からカウボーイたちの歓声や馬の蹄の音が聞こえてくるようだ。写真参照)。「最後の瞬間の救出」に仲間たちもホテルに到着し、さらに乱闘に加わって暴れるバイヤーの息子を取り押さえる。乱闘の最中に二つに割れたハートのペンダントも、ハリーと牧場主の娘が再び結ばれるさまたげにはならないのだった。めでたし、めでたし、というお話。
ハリーの手にした煙草が飛ぶ飛ぶ。しかも蓮實重彦氏が「身振りの雄弁―ジョン・フォードと「投げる」こと―」(文學界2月号)で指摘するように、それはきまって物語的に重要な瞬間にである。大傑作。
cinema 08 http://www.leoscheer.net/revue.php3?id_article=231