朋遠方より来るあり亦楽しからずや

Oさんから、一時帰国していた私の大学時代の同志Kさんと偶然、演博に調べものをしにいったら出会ったとのメールがあったのが、かれこれ二週間くらい前で、それから本人と何度かメールのやり取りがあって旧交を温めていたのだが、今日ようやく再会することができた。朝11時頃、待ち合わせ場所のフィルムセンターでOさんとだべっていると、一児の母となったKさんが子供を抱いて現れる。開口一番、お互いに「全く変わってないねぇ」。とりあえず飯でも喰おうということになり、近くの中華料理屋に三人、じゃなかった四人で行く。基本的に私は子供には全く興味がないのだが、旧友の子供だということもあってか、とても可愛くて仕方なく、一歳だというその子とのコミュニケーションを楽しむ。彼は携帯電話が好きらしく、母親の携帯を何故か耳ではなく後頭部に押し当てて「もしもし」とか言っているのが面白い。記念に母子の写真でも撮ろうと自分の携帯のカメラで彼らを写すと、彼はそのシャッター音に反応したらしく、私が携帯を手渡すと何度もボタンを押してはシャッター音を聞いて満足げ(母親がそれを取り上げると泣き出した)。感心したのはKさんの子供への接し方で、彼女は決して幼児語を使わず、私たちに接するのと同じクールな(しかし愛情ある)態度で子供に話し掛けるのだった。子供がそろそろ飽きてきたみたいなので近くのカフェに移動。途中、彼女はホン・サンスについて「食って旅してセックスして、という映画」と見事に要約し、であるがゆえに何本か続けて見ると飽きると言っていた。それって逆に見たいかも(と思い早速、韓国版DVDを注文)。彼女としてはポン・ジュノの方を推すとのこと。お茶をしていたら、見たような顔の人が向うにいると彼女が言うので、振り向くとMさんだった。氏から猿にまつわる笑うに笑えない話を聞くが口止めされているのでここには書けない。悪しからず。優秀な映画研究者である二人をMさんに紹介。子供が飽きたせいかまた暴れ出したので、日陰を選びながら銀座の大通りを新橋方面に向って歩く。途中、書店の店頭に5OO円DVDなるものが大量に陳列されていたので皆して群がる。良く見るとなかなか渋いラインナップなので私も『アパッチ砦』(フォード)と『太平洋航空作戦』(レイ)を衝動買い(あとで画質を確認したら前者はそれなりだったが、後者はかなりキレイだった)。結局、汐留まで来てしまい、誰もシオサイトに行ったことがなかったので観光がてらお茶。日米の映画学界の業界裏話などを興味深く聞く。子供に初期映画と初期アニメーションを見せて英才教育をしようと考えているKさんに、映画作家か映画研究者にでもするつもりなのと質問すると、自分と同じように映画を好きになってもらいたいだけとの美しい答えが返ってきて、ちょっと感動。夕方5時半頃、新橋で母子と別れて(アッと言う間の楽しい6時間)、Oさんと有楽町まで歩いていき、腹が減ったのでガード下の安くて旨いタイ料理屋で飯を食う。転向の問題について話す。彼から聞いた、成瀬が撮ったスパイ映画(!)『上海の月』(断片のみ現存)を激しく見たくなる。その後、私は爆音ナイトへ。岸野雄一さんのトークショーがあり、エルヴィス・プレスリーと『キング・コング』(クーパー&シェードサック)の録音エンジニアが同一人物であるという話などを興味深く聞く。爆音ゴダールはやはり凄かった。聴きに行かないのは損。


a)『右側に気をつけろ』(ジャン=リュック・ゴダール)★★★★