空想から科学へ

a)『武士道』(ハインツ・カール・ハイラント/賀古残夢)★★
今日から始まったNFCの「発掘された映画たち2005」の目玉の一つ『武士道』。当然、満員だろうと思って出かけていったら、ガラガラだった。しかも豊田四郎特集では若者が結構来ていたのに、こちらはそれほどでもなかった。内容はと言えば、鎌倉時代に何故か南蛮人が黒船に乗ってやってきて頼朝公とその家来たちと親交を結ぶが、頼朝公と敵対する大名にやはり毛唐の女性がさらわれたので、頼朝公たちと協力して彼女を助け出し、毛唐同士で結ばれてめでたしめでたし、という武士道とは何の関係もないトンデモ映画だった。以前、さる御方が「つまらない」とおっしゃっていたのを耳にしていたので、何の期待もしないで見たのだが、意外に楽しめた。内容はヘンテコだが、形式はきちっとしている。特に後半、頼朝公の家来たちが文字通り音もなく(サイレント映画なのだ)、敵の城に侵入していくあたりの呼吸は悪くない。人が沢山出てくるカットの人の動かし方はなかなか見事(例えば、城下の坂を上がっていく軍勢を捉えて、ティルトアップするとその軍勢の先頭の集団が橋をわたってまさにその門前に攻め入ろうとするカットなど)。時代考証などめちゃくちゃでどうみても鎌倉時代というよりは江戸時代なのだが、時代劇という意識を忘れて普通の活劇として見ると面白い珍品。話のタネにどうぞ。
上映後、エクセルシオールカフェで閉店までOさんと映画談義。彼のブログデビューを画策する。
帰宅して、最近の映画関係の論文では一番面白いとOさんが言っていた、「未来」7月号(Nさんありがとう)の岡田さんの科学映画小論「科学から空想へ」を読む。名文。結核菌と白血球の死闘を描写し、「極微の世界で繰り広げられる裸体の“死闘”、その身も蓋もない平板な手触りに打ちのめされた。以来、映画に“肉弾戦”を導入したことで想起される名前は、ロバート・オルドリッチを除くなら、数日に及ぶ微速度撮影を不屈の集中力で貫徹したキャメラマン、小林米作となった」とか、「樋口は、時間の流れと本質的に独立した映画作家かも知れない。その証拠に、彼の仕事は最晩年になってもう一つのヤマを迎える。91歳で発表し、短篇界の各賞を総なめにした『真正粘菌の生活史』(1997年)の、粘菌のリズミカルな動きに魅入られたならば、世界の最長老現役監督はマノエル・デ・オリヴェイラである、などと安易には答えられなくなる」とか、名フレーズがポンポンでてくる。どうです、読みたくなったでしょう。私は科学映画が見たくなった。なお、この小論は岡田さんのサイト「アトリエ・マニューク」で読めるので以下にリンクしておきます。


科学から空想へ http://users.ejnet.ne.jp/~manuke/zatsu/eiga/kagakueiga.html