アメリカにおける「サイコ2割問題」

hj3s-kzu2005-08-18

担当講師まで巻き込んでヒートアップした「サイコ2割問題」ですが、ひょっとしてアメリカでも似たような状況なのでは、と思い、私の畏友で現在ユタ州立大で映画を教えているK女史(元シカゴ大)にメールしてみたところ、こちらの予想を超えたものすごい回答が返ってきたのだった。あんまり面白いので、要約してみます。Kさんサンクス。

まずアメリカでは『サイコ』はポップカルチャーの一部なので、さすがに名前だけは知られているが、実際見たことのある人は2割を切る(!)と思われる。つまりアメリカでは「見たことあるか」というよりは「きいたことあるか」っていうレベル。アメリカの大学では生徒が映画について何か知ってることを期待してはならない(たとえNYCの映画学科*1であろうと)。しかも授業で教えてなくて、教科書にも載ってないことをテストとかの形で尋ねたら、次から授業をボイコットされても不思議ではない(!)。なぜならアメリカの大学とは金銭とひきかえにサービスを提供する場なので。ある時、Kさんが学生に「古典的ハリウッド映画」*2についてのイメージを尋ねたところ、せめて『カサブランカ』とか『風と共に去りぬ』ぐらいの答えが返ってくるかと思いきや、けっこう映画通を自称する学生に「チャップリン」って言われて頭を抱えたそうな。アメリカは「進歩の国」なので、皆、「現代*3の映画は昔の映画より進んでて洗練されてる」という巨大な勘違いをしており、いわゆる「昔の映画」を学校の映画館で見せたりすると、「ぼくらは洗練された皮肉屋」とか思ってるバカどもが、おかしくもないとこで笑うのだそうだ(さすがにトム・ガニングはこういう学生を怒鳴りつけたらしい)。そんなわけで彼女が日本映画を教える時はあえて「三人の巨匠」という(恥ずかしい)コースにする。ちなみにこの場合の三人とは小津・溝口・成瀬ではなく、小津・溝口・黒澤を指す。というのも、アメリカの学部生は聞いたことのないものには興味を示さないので。

どうです凄いでしょう。

あ、あとアメリカの学生の名誉のために付け加えておくと、彼らは、一般に現代ハリウッド映画は好きで沢山見てるそうだ(週一本以上)。これは日本の平均的大学生よりも多いのではないか。だから授業でも何かと最近の映画に関連づけて話すと理解させやすいとのこと。

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「新」映画理論集成〈2〉知覚・表象・読解 (知覚/表象/読解)

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*1:かつてニコラス・レイが教鞭をとり、ジム・ジャームッシュが卒業したことで有名。

*2:この概念については、北野圭介『ハリウッド100年史講義』のpp.60-68の記述が簡便。本格派のアナタには『「新」映画理論集成2』に所収のデイヴィッド・ボードウェル「古典的ハリウッド映画」をオススメします。

*3:自分が生まれて以降ぐらいを指すらしい。