クリームヒルトの復讐

a)『ニーベルンゲン 第一部 ジークフリートの死』(フリッツ・ラング)★★★★
b)『ニーベルンゲン 第二部 クリームヒルトの復讐』(フリッツ・ラング)★★★★
c)『フォーゲレット城』(フリードリヒ・ヴィルヘルム・ムルナウ)★★★
b)黒澤明が『蜘蛛巣城』や『乱』で試みたのは、シェイクスピアの悲劇の時代劇への翻案などではなく、『クリームヒルトの復讐』のリメイクであった。嘘だと思うなら、この映画の後半部を見てみるがよい。そこには黒澤明ほどの映画的才能を持ってしても達成し得なかったもの全てがある。自伝『蝦蟇の油』の記述によれば14歳の時に初めてこの映画を見たという彼は、生涯、この作品に嫉妬し続けたに違いない。この作品をリメイクするには、『斬人斬馬剣』の伊藤大輔ほどの力技が必要とされるのだ。
火をつけた矢を放たれて炎上する城を舞台としたクライマックスの凄惨な復讐劇を見るにつけ、この作品における反地上的なラングの登場人物(その争いは人間というよりは神々のそれを思わせる)の狂気を引き受けるには、黒澤の登場人物たちはあまりにも人間的であり過ぎるのだと思わざるを得ない。実際、ここに出てくる者たちは皆、デモーニッシュな何かに突き動かされていて、ことごとく狂っている。ここにおいて、「復讐」とは「宿命」の同義語となる。
できれば大きなスクリーンで見ることを勧める。作品にはそれに相応しいテンポと画面の大きさがあるのだ。実際、以前、テレビモニターでこの作品を見た時には、恥ずかしながらその偉大さに私は気づかなかった。

蝦蟇の油―自伝のようなもの (岩波現代文庫―文芸)

蝦蟇の油―自伝のようなもの (岩波現代文庫―文芸)