a)『上海の月』(成瀬巳喜男)★★★★
b)『秀子の車掌さん』(成瀬巳喜男)★★★★
a) ラング、ヒッチコック、バルネットの間諜映画に匹敵する傑作。幼稚園の地下室に秘密基地があるなんて!自動車の尾行場面のゆるやかな運動感と車窓から見える上海の街の生々しさ。暗闇のなか山田五十鈴(艶かしい中国人女性スパイを演じている)が何者かの凶弾に倒れるラストも素晴らしい。ただし時代的な制約を成瀬も免れているわけではない。いつか全編が見られることを願う。
b) 「監督、これ繋がらないんじゃないですか」「ん?大丈夫、誰もそこまで見てないよ」というような会話がおそらく編集マンと監督の間で交わされたに違いないような、ある大胆なワンカットを発見。思わず画面を指さしそうになった。上映後、知人数人に尋ねてみたが、皆、気づいていなかった。もっとも私も三、四回目にしてようやく気づいたのだが…(動体視力アップ?)巨匠とはやはり「観客は画面を見ない」ということを前提にして映画を撮っている大胆な人たちのことを言うのだろうか。皆さんお気づきになりまして?(イマジナリーラインとかそういうことではない)