映画美学校映画祭2006その3

映画美学校映画祭2006より。
『The Selfish Giant』★
『エスケープ/フラフープ』★
『ヘレンケラーは39』●
『P ark』●
『恋スル44マグナム/Love&.44』●
さらば愛しき女よ』★★
『高浪アパート』★
フィクション・コース初等科2005年修了作品より。
『復讐』●
『船乗り』●
『視界肉体旋律暗号』★
『ざわめき』●
『せぐつ』●
『迷蛾の灯』★
今日は『さらば愛しき女よ』が見られて本当に良かった。姉が足の不自由な妹の髪を風呂場で洗ってやる様を捉えたロングショットから、手持ちの二人の寄りのショットへと繋ぐ、冒頭の画面構成からドキドキさせられっぱなしでその緊張感は最後まで途切れることはなかった。やや音処理が雑なところが惜しまれる。『The Selfish Giant』のアニメーション技術は一定水準以上だとは思ったが、それ以上に何か感じるところはなかった。『エスケープ/フラフープ』は看護婦のスキップが印象に残るものの、おそらく初期ゴダールあたりに影響されただろう上っ面な演出が気になった。この手の模倣は1980年代までで終りにしたい。『ヘレンケラーは39』はこの作家のいつもながらのアプローチで、酒席で見るぶんには面白いが、映画館で見るものではない。『P ark』は何がやりたいのかよく分からなかった。もしエコロジーを主張したいのであれば、考え直した方がいい。『恋スル44マグナム/Love&.44』はアクション映画なのにアクションに全く切れがないのが問題。本気度が足りない。『高浪アパート』は日本に出稼ぎにきた若いインドネシア人たちの魅力的な表情が捉えられている点は評価できるが、全体を統合する太い線が欠けているような気がした。
『復讐』『船乗り』『視界肉体旋律暗号』『ざわめき』『せぐつ』『迷蛾の灯』は例年「1st Cut」と呼ばれて上映されていたものの最新版。どれも積極的には評価はできないのだが、しいてあげれば『視界肉体旋律暗号』と『迷蛾の灯』が、この6本中ではベストか。前者はヒロインの顔が魅力的に撮られていた点は評価できるが、アラン・レネクリス・マルケルを思わせる時制の交錯があるこの作品の未来パートにはあまり感心しなかった。小難しいことを考えずに、今度は直球の青春映画を恥ずかしがらずに撮って欲しい。後者はその世界観には全く乗れないし、センスも最悪だと思うのだが、この中では一番才能を感じた。主演の三人の面構えがどれも良い。残りの作品について言うと『復讐』と『船乗り』はできの悪い深夜ドラマ、『ざわめき』と『せぐつ』は(あくまで相対的なものだが)できの良い深夜ドラマという感じがした。どちらにしても個人的には全く興味が持てない。映画美学校はいつからこんなウェルメイドな短編づくりをさせる機関になってしまったのだろうか。昔、高橋洋が書いていたように、よくできた短編ではなく、「長編になり損ねたようなブッ壊れた短編をやる」*1のが、この学校の基本理念だったような気がするのだが、私の思い違いだろうか。端的に言って、志が低いということなのだが、いずれにせよ他人事ながら将来が思い危ぶまれる。
なお、かつて映画美学校第一期初等科修了生の作品について梅本洋一が書いた批評が以下にある。
http://corpus.pobox.ne.jp/contents/cine_journal/data/harunosora_sisyuunomaria_hananoana.htm
この批判は十年ちかく経った今でも有効だと思うので、未読の関係者の方はぜひお読みいだだきたい。私見ではこの批評家が書いたものの中では最良のものである。

*1:『映画の魔』p.80