六月大歌舞伎の夜の部を見に歌舞伎座へ。演目は「御浜御殿」、「加賀鳶」、「船弁慶」。この中では「御浜御殿」が素晴らしかった。これは「元禄忠臣蔵」の一部で、溝口健二が映画化したのでいうと『元禄忠臣蔵 後編』の最初の三十分にあたる。もちろん溝口の同じ場面も、縋り付く山路ふみ子をずるずる引きずりながら中村翫右衛門が廊下を進んでいく移動ショットとか映画的強度に満ちた素晴らしいものなのだが、何度見ても人間関係が分からずにいた。ところが今日の仁左衛門染五郎の「御浜御殿」は非常に明晰でようやくこの場面のドラマとしての面白さが分かった次第。奇しくも最後に仁左衛門の豊綱が演じるはずだったのは「船弁慶」なのだった(ただし能のバージョン)。「加賀鳶」は黙阿弥が書いた割にはあまり面白くないなあ、と思って原作のあらすじを読んでみたら、面白いところが全部カットされていた。台詞の言い回しも明晰さにかけ、よく聞き取れなかった。あと冒頭の喧嘩に向う火消したちの様子は、先月「め組の喧嘩」の活き活きとした描写を見たばかりだったので、あまりぱっとしなかった。前回の反省を踏まえ、今回は三階正面の席を取ったのだが、花道は七三がほんのちょっと覗いてみえる程度で、しかも前の席のおばはんの髪型がボリュームありすぎだったので、ちょうど舞台の中央が半分隠れてしまうのだった(涙)。次はもう少しいい席にしようか思案中。ちなみに来月は『十二夜』(もちろんシェイクスピア)♪