ヤマガタ2007 その3

a)『ミスター・ピリペンコと潜水艦』(ヤン・ヒンリック・ドレーフス/レネー・ハルダー)△
b)『長崎の子』『声なきたたかい まつけむしの一生』『女王蜂の神秘』『真正粘菌の生活史』(樋口源一郎)◎
c)『虚栄は地獄』(内田吐夢)◎
d)『稟愛』(フォン・イェン)○
e)『ミリキタニの猫』(リンダ・ハッテンドーフ)△
本日は『女王蜂の神秘』、『虚栄は地獄』、『稟愛』で決まり、以上。
『ミスター・ピリペンコと潜水艦』は昨日の『革命の歌』同様、ミニシアター向きドキュメンタリー。全く駄目とは思わないが、どう考えてもヌルいフィクション。これに限らず、今回のコンペ作品の中にはこうしたヌルいフィクションが散見されたが、フィクションで一流になれない人がドキュメンタリーで名前を売ってからフィクションを撮るというパターンはそろそろ止めにしてもらいたいし、コンペの選者もその程度のリテラシーはもってもらいたい。ちなみにその最たる例がリティー・パニュであることは言うまでもない。で、この作品の内容について一言だけいうと、近所の池で潜水実験に成功した時点で映画を終わらせてもよかったような気がする。「次は黒海だ!」的なサスペンスを残しつつ。その後が弛緩しすぎ。
『女王蜂の神秘』で、ミツバチたちがスズメバチと肉弾戦を繰り広げる、手に汗握る瞬間には最良の「活劇」(普段から、この言葉なるべく使わないように心掛けているのだけど、他に言葉が見つからないのでやむなく使う)が宿っている。この作品を見て、人は様々な映画を思い浮かべるだろうが、私は『次郎長三国志』シリーズだった(特に越冬のシーン)。
『虚栄は地獄』の面白さには、今回のコンペ作品が束になっても到底かなわない。内田吐夢が二、三日でテキトーに撮っただけ(あくまで憶測です)の二十分にも満たない喜劇に、それよりも時間もカネもたっぷり掛かっているはずの大作群があっさり敗北してしまうのは何故なのか。要は才能の問題、とは口が裂けても言いたくないのだが…
と、暗澹とした気分の後で『稟愛』に出会えて本当によかった。ここ数年で見た「三峡ダム」ものの中では一番好き。最初のショットで、川辺で洗濯をしているヒロインにズームアップしておきながら、彼女が立ち上がる瞬間、アクション繋ぎで引きの画になるのには、「それは違うだろ!」とツッコミを入れたくなったが、それ以降のショットはどれも空間把握の仕方が素晴らしく、この映画作家が単に「ドキュメンタリー」という狭い枠ではなく、まさに「映画」というより広い枠の中で思考していることをうかがわせる(前者でしか、ものを考えていないドキュメンタリー作家がいかに多いことか)。見終わった後、今回の映画祭に出品された新作の中では、これ以上の作品に巡り合うことはないだろうという漠然とした予感を感じた(で、実際そうだった)。
本日の締めとして満員の会場で『ミリキタニの猫』を見るが、典型的なミニシアター映画でがっかりした。いくら一人でキャメラ回していたからといっても、キャメラ位置に対するセンスなさすぎだろう(後半はキャメラマンが参加したのか見られる画面になったが)。映っていればいいというものでもない。「映画」なんだから。ショットに対する意識の低いドキュメンタリー作家が多すぎ(B学校もね)。あと音楽の使い方が安易。
上映後、香味庵に行くと、さすがに週末だけあってメチャ混みだったので、あちこちうろつき、地元民しかいない旨いラーメン屋を発見。