北京滞在記 その7

本日はグランド・フィナーレ
前田くんから、昨晩、リ・イーファンが「黄牛田電影」に加入したとのビッグニュース。それとヨ氏が大連から戻ってきた。
『Mid-Afternoon Barks(下午狗叫)』は、田舎のジャームッシュというか、初期ジャームッシュをさらに無意味にしたような変な映画だった。前評判の高かった割にはそれほど面白いとは思えなかったが、最後のエピソードになって、西瓜売りの親爺が難癖をつけられるあたりから俄然面白くなり始め、電信柱に工事夫が登っていくのに合わせてキャメラもクレーンで上昇してっぺんまでくると、田舎の村に見渡す限り電信柱が立っているというラストショットを見て、仕事してるなーと感心。あと主演の一人が万田さんによく似ていた。
北京にいるのも今日で最後だと思うと、買い残したあれやこれやのDVDのことが脳裡に浮かんで離れないので、途中で抜け出すことに。一人で行くつもりだったのだが、前田くんが心配して付き添ってくれる。Oさん、Nさんも国貿まで一緒にバスで行き、そこから前田くんと王府井の海賊版屋へ。彼はこの後、会場に戻って大事な仕事が控えているので、制限時間は三十分。で、彼のおすすめの店を二軒ほど回るが、一軒目でティエン・ユアンの『呪い』をゲット。他にタネールとか『中国』(アントニオーニ)とかヤンを二枚ほど。ちなみにここでも店員にティエン・ユアンの在庫を尋ねたら、ない、と答えられたが、何となく棚を眺めていたら目の前にあった。他の店でもそうなのだが、一般に海賊版屋の店員は商品知識がないと考えた方がいい。その割にはどの店でも必要以上に店員がいて暇そうにしているのだが、Nさんによればこれは万引防止のためとのこと。防犯カメラなど設置していないのが普通なので人海戦術というわけか。続いて二軒目。ここはかなり充実した品揃え。他の店にはなかったキン・フーやら『片腕ドラゴン』がきちんと置いてある。ブニュエルの『犯罪的人生』もあったのでゲット。あっという間に時間になったが大満足。結局、滞在中に買った三十枚ほどのDVDがどう考えても旅行鞄に入らないので、海賊版屋のそばの洋服屋でショルダーバッグを買うことに。くすんだ緑の布地に赤い星と赤字の中文で「人民のために」と書かれたものを選ぶ(毛沢東のイラストをあしらったものも捨てがたかったが)。七十五元とちょっと高め。
タクシーでトンボ返りし、会場に戻ると「黄牛田電影」の都市短編シリーズの一本『Luck,Taiyuan』(フゥ・シンユィ)が終わるところだった。ラスト、台車に乗って移動する身体障害者の乞食に向けられたキャメラを彼は手にした杖で追い払おうとするがなかなか届かない。ちょっと面白そうな感触だったので、見逃したのは残念。
次の『Bridge(橋)』(シュイ・シン)も都市短編の一本。雨の南京の情景ショットの後、車がひっきりなしにびゅんびゅん通るので横断歩道を渡ろうとしても渡れない老人の様子を長回しでコミカルに見せる。面白いことは確かだが、易きに流れている感もしなくはない。
この後、『泥棒猫』(居原田眞美)。この作品を見るのは三年ぶりで二度目だが、ようやく人物関係とストーリーがきちんと理解できた(助監だったのに)。まあ話が分からなくても素晴しい作品であることは間違いない。上映後の監督の簡単なスピーチにも感銘を受けた。
次いで『人生紙芝居』(丸谷肇)。この作品も見るのは三度目くらい。本当は同じ作家の、見逃していた『籠の中の緑』を見たかったのだが、諸般の事情で今回は上映されなかった。残念(というか丸谷くん、君はこの映画祭に絶対来るべきだったぞ。めちゃめちゃ刺激を受けたはず。今度、機会があったら必ず行くように。以上、私信)。
夕食後、閉幕式。ジュ・リークンのスピーチの後、『下午狗叫』に主演したミュージシャンのライブ。魂の叫び系即興演奏(アコギ)といったらいいのか、『AA』(青山真治)での灰野敬二の演奏シーンを少し思い出した。
クロージングは『Village Archive(郷村档案)』(リ・イーファン)のワールドプレミア。村の四季とそこで起きる出来事をじっくりと腰を据えて見つめた傑作。豚の去勢シーンに始まって、豚の屠殺シーンに終わるこの作品を、小川紳介にも通じる大らかなユーモアが包んでいて、村のキリスト教徒や、村長選挙で水増し票を書いては投票箱(ダンボールの手作り)に入れる老人たちや、場違いに大きな音を出すスピーカーで村人たちに通達をする共産党の女性幹部など、見ているだけで面白く、中国語を解さない私でも大笑いしながら楽しめた(特に選挙の開票の場面)。この作品を見ることができただけでも北京に行ったかいがあった。日本でもいずれ上映されると思うが、必見。
上映終了後、ロビーで立食パーティー。早速、リ・イーファンに親指を立てながら「グレイト!」と言って、握手。『Gobi』の監督がいたので、面白かったよ、と感想を言うと、彼も拙作をいたく気に入ってくれていた様子。ホテルに着いても皆、話が尽きないので、スタッフの女の子が皆で飲もう!と提案して、若手作家たちとスタッフの女の子たちを交えて深夜まで飲む。筆談を使いつつ(日本の映画作家の名前が中国風に発音されるので)、映画談義に花が咲く。来年の五月にドキュメンタリー映画祭が開かれるというので、必ず来ると再会を約束。ついつい限度量以上に飲んでしまい。ひと足お先に部屋に戻ってダウン。