金井美恵子の『小説論』をほぼ十五年ぶりに再読。今回の文庫化にあたってはボーナストラックが二つ加わってなかなかお買い得なのだが、この本は何も小説を読もう/書こうとしている人にだけ向けられているのではなく、映画を見よう/撮ろうとしている人も必読なのだった。特に映画を撮っている女子(そこのあなた、あなたですよ!)は読むと何かとご利益があるかもしれない(たぶん)。で、本編の最後の方に次のような一節があり、ある知人を思い浮かべて大笑いしてしまった。金井氏はブルームズベリー・グループの一員だったジョン・ミドルトン・マリという批評家がモデルとされる、ハクスリーの『恋愛対位法』の登場人物の一人について楽しげに以下のように述べている。

どういやな男かと申しますと、女とつき合うときに、いつも母性本能に訴えて同情をかい、いっしょに同じ部屋などにいたりすると、芸術的な苦悩や人生の苦悩のせいで自分は打ちひしがれていて、それも全部他人のせいで苦しめられているのだ、といった泣きごとを並べて、母性的な気持ちと文学に対するそこはかとない憧れをもっているようなタイプの女の人を、頭のマッサージをさせるようなかたちでたらし込むのです。そしてマッサージなんかさせているうちに、ベッドのなかにちゃっかり女を引きずり込んでいたという、そういう批評家なのです。

映画好きの女の子はこういうタイプの男には気をつけなきゃダメだよ。

小説論 読まれなくなった小説のために (朝日文庫 か 30-3)

小説論 読まれなくなった小説のために (朝日文庫 か 30-3)