関西訪問記 その6

頑張って早起きして、九条のシネ・ヌーヴォまで行き、朝イチで見逃していた『眠り姫』(七里圭)を。冒頭の真っ暗な画面から徐々に夜が明けていって、樹の枝々がオレンジ色に染まった空を背景にくっきりと逆光で現れてくるまでの長回しのショットが素晴らしい。このまま、全編これで押し切ってもよかったような気も。
そこからプラネットに移動し、『十善戒』後編を客席で見る。今日は海老根剛さんも見に来てくれ、久々の再会を喜ぶ。宮川さんや堀さんも見に来てくれて嬉しい。観客数は前回のヌーヴォの上映の二倍半になった。宮川さんから『ヒミコさん』のサントラをもらう(ありがとう!)
トークでは私の敬愛する映画作家である桝井孝則くんに対談の相手をしていただいて、普段話さないようなかなり突っ込んだ話ができたのでよかった(ありがとう!)。
それから下のカフェで海老根さんと映画や大阪府政について四方山話。
さて「シネ・ドライヴ賞発表!」の時間になったので、再び会場に戻る。前評判の高かった『ダンプねえちゃんとホルモン大王』(藤原章)が大賞を受賞し、主演の宮川ひろみさんの晴れ姿を本人に手渡されたデジカメで即席キャメラマンとして記録する。おめでとー!昨晩の藤原章ショックの記憶も冷めやらぬので、明日上映されるこの未見の作品への期待に胸躍らせる。
宮川さんと軽くお茶してから、未見だった『童貞。をプロデュース』(松江哲明)を見ようと、ひとり会場に戻ると立見の模様。人気あるのね。まあこの作品には縁がないのだと見るのを諦めて、一旦ホテルに戻ってシャワーを浴びて一休み。
再びプラネットに戻って、何度目かの『死なば諸共』(西山洋市)を。やはりこの凝縮度は凄い。確か蓮實重彦が昔、山中貞雄について述べていたことだが、あるショットに繋がる次のショットを観客の期待の地平に沿いつつ、それを遥かに上回る見事なショットとして提示するのが山中であると。*1山中貞雄主義者である西山洋市はこの作品でそれをやっていると思う。現在のところ、この映画作家の最高傑作。
『亀虫』(冨永昌敬)も再見。見直して気づいたのだが、私が以前凄いと思った「猫がちょこんと上に載ったテレビの画面に競馬中継が映るショット」(id:hj3s-kzu:20090210)なるものは実は存在しなかった。実際は「テレビの画面に競馬中継が映るショット」は確かにあるのだが、そこには猫は載っておらず、別のショットでテレビのそばの床の上に猫がいるのはあった。でもそれだとあんまり凄くないわ。記憶の中で美化されていたか。見直さずに美しい記憶のままにしておけばよかった。残念。
終わってから桝井くんと「十八番」で飯を食い、プラネットに戻ると、神戸からの仕事帰りの唐津くんが来ていた。で、皆で今日も朝まで映画マラソン。さすがに連日徹夜のため、少しうとうとする。朝方、ホテルに戻り、朝食を食べて仮眠。

*1:ちなみにある種の「古典主義」を標榜する現代の作家に欠けているのが、この「期待の地平を上回る」という点だと思う(「驚き」とも言い換えられる)。いくら古典映画を研究して緻密にコンテを割っても、肝心なこの点が抜けていては、それは真の「古典主義」足り得ず、単なる「擬古典主義」に終わってしまう。