映画美学校映画祭2009 その1

期日前投票は昨日済ませておいたので余裕ぶっこいていたら、連日の朝までコースのためか、映画美学校映画祭の初日に遅刻し、『演出実習2007』(というタイトルの記録作品)の西山洋市編、井川耕一郎編を見逃してしまった。残念。なので、万田邦敏編から見始める。
内容に関しては井川さんがINAZUMAブログ(id:inazuma2006)で詳しく解説しているので、ご参照を。受講生を役者に使って、他の受講生の前で実際に演出をつけていく様子をビデオに収めた「教材」なのだが、役者の動きを自分の身体を使って示しながら、試行錯誤しつつ細かく全ての動きの芝居をつけていく万田さんの姿が見られて興味深かった(十年前はこういう授業なかったもので)。ただ素人を使ってやる場合とプロの役者を使う場合とでは演出のアプローチが異なるのだろうなーと見ながら思ったことも確かで、プロの場合は役者の裁量の度合いがもう少し広いのではないかと思われるから、これが「万田演出」だと思ってしまうのは違うかも(他の講師に関してもたぶん同様)。延々と続くリハを見ながら、役者をやるには想像力って大事だよなーと考えていたら、最後のインタビュー部分で万田さんが全く同じことを言っていたので、やっぱりそうかと思った。と同時にキャスティングって「演出」の前提としてでかいなあと思ったのも確かで、つまりこれを失敗すると演出家自身が後で苦労する羽目になる。この後に、実習で使われた台本を書いた矢部さん(『月夜のバニー』)が昔自分で撮ったビデオ作品と受講生が撮った二作品を流したが、矢部さんのはとても面白かったし(ヒロインが二人とも素晴らしい)、受講生の作品も普通に上手く、特に最後に流した方はてっきり井川さんが撮ったものと勘違いしたくらい上手かった。
休憩を挟んで『演出実習2008』。これは大工原正樹さんが同じ台本を演出する姿を『こんなに暗い夜』(来週の映画美学校映画祭で上映されます)の小出くんが撮影・編集した「作品」で、こちらの方はホン読みからリハまでの過程をフォローしている。ただひたすら自分で動きを示してみせる万田さんとは対照的に、大工原さんは割と丁寧に役者たちと登場人物のエモーションについて一緒に考えながら、台本にあった台詞の「飛躍」を発見する。この「飛躍」をどう処理するかが演出のポイントになってくるのだが、そのためにある動作を大工原さんは役者に指示し、役者がそこに含まれる性的なニュアンスにヴィヴィットに反応し、少し恥じらうと、真剣な眼差しで「いや、でもそのいやらしいのがオレは見たいんだよ」と言う大工原さんの姿を見て、演出家というのはかくあるべきだなーと思ふ。
最後に上映された『演出実習2009』(西山洋市/大工原正樹/万田邦敏/井川耕一郎/古澤健/植岡喜晴)はタイトルが似ているので誤解を招きやすいが、先の二本とは異なり、実際に講師たちが受講生とコラボして作った短編集で、それぞれ十分前後の短い作品ながら、「実習」とはいえ実質上それぞれの映画作家たちの新作と呼んでも構わないほどのクオリティとともに、並べてみると各人の色がくっきりと浮かび上がってきて面白かった。個人的には万田さんの「同人誌系ファンタジーか?」というようなSFが、お得意のナンセンス路線炸裂で驚いたのだが、それ以上に驚嘆したのは西山さんの作品で、『吸血鬼ハンターの逆襲』を見た時にも演出の研ぎすまされ方が凄いことになっているなーと思ったものだが、今回のもミニマル(というと語弊があるかも知れないが)に断片化され凝縮された各場面が実に充実していて、おそらく役者は受講生なのではないかと思うのだが、そんなことを感じさせないくらい、登場人物が堂々とそこに存在し、見事に画面に収まっていた(おそらく十分にも満たない作品なのに)。機会があれば、あと何度か見直してみたい。
帰りに井川さん、大工原さん、およびB学校生さんたちと呑み。今日は終電で帰る。
映画美学校映画祭2009 http://www.eigabigakkou.com/festival/index.html