東京国際映画祭2009 その1

a)『タレンタイム』+『ヤスミンCM作品集』(ヤスミン・アフマド)○
b)『アレキサンドリアWHY?』(ユーセフ・シャヒーン)○
c)『デジタル三人三色 2009:ある訪問』より
『深い山奥』(ホン・サンス)◎
『狛 KOMA』(河瀬直美)×
『蝶は記憶を持たない』(ラヴ・ディアス)△

某鬼編集者から「ヤマガタ日記だらだらしすぎ」との指摘を受けたので、東京国際日記はあっさり風味にする。まあその方がこっちも楽だし。

恥ずかしながら、今年の夏に逝去したヤスミン・アフマドの作品を見るのは今回が初めてなのだが、『CM作品集』を見ると実に限られた時間内に見る者の心をつかむ才能の持ち主だったことがよくわかる(だからこの作家の早すぎる死を悼む多くのファンがいることもわかる)。ただ逆に言うと、それは人心の誘導に長けていたということでもあり、情報操作の危険と紙一重なのではないかとも思った。今回の上映のために選ばれたCMはどれも政府広報のたぐいで、とってもヒューマンな内容だったりするのだが、例えば仮にこの作家が大企業の商品を宣伝したら、それはそれでうっかり買ってしまいそうな気がする。こんなことを思ったのも、『タレンタイム』で何度か流れる歌謡曲(?)にモンタージュされる映像が、とってもクリシェなのではないかと思ったからなのだ。とはいえ『タレンタイム』は、最初の方で聾唖の青年のおじさんがイスラム系の隣人に殺されてしまう流れはさすがに唐突すぎるだろうと思ったことを除けば、実に真っ当な青春群像劇で、しかもお国事情の複雑な宗教的民族的対立の問題(これは肌の色の違う小学生のカップルをメインに据えたCMでも伺える)も絡めつつ、最後にライバルの同級生が演奏する脇で、中国系の優等生がそのメロディに合わせてそっと胡弓を奏で始める下りには思わず涙してしまった。

『アレキサンドリアWHY?』はよくも悪くもシャヒーンのその後の運命を決定づけてしまった作品で、これが国際的な評価を受けてしまったことで彼は映画監督というよりは芸術家として自らを規定し、最後までその呪縛から逃れられなかったという点において、果たしてそれが映画作家としての彼にとって幸福なことだったのだろうかと疑問に思う。個人的には初期の『渓谷の争い』のような作品の方が遥かに好きなのだが。
『デジタル三人三色』はホン・サンスの圧勝。いつもながら「酔っぱらってセックス」という実にグダグダな人間関係を扱っているのだが、ヒロイン、女友達、元カレ、元不倫相手で恩師の四角関係のいやーんな感じ(え、アイツとアノコが実はデキてたの!的な)を見事な手さばきで描いている。特に最後の、酔っぱらったノリで何となくセックスしたヒロインと元カレが近くの焼肉屋で朝食を取っていると、やはりラブホ帰りの女友達と恩師のカップルとばったり鉢合わせしてしまい、気まずいので挨拶もせずにそそくさと店を出ると、恩師が後から追いかけてきて、年長者を無視した無礼に逆ギレし、店の前で偽善者ぶって説教し出すシーンは大爆笑。河瀬直美のは相変わらず雰囲気だけ。しかも題材が在日問題というデリケートなものに触れているにも関わらず、そこは何となくスルーして、情緒不安定な女が男に癒される話をこんな感じで即興風に芝居させれば見る人たちは何となく感動してくれるよね、みたいな浅薄な意図が見え透いてしまい、全くいかがなものかと思う。ラヴ・ディアスのは、寂れた炭鉱町に何年かぶりに帰ってきたモデル体型の金持ちの女の子をムサい男たちが誘拐して身代金を奪おうという話なのだが尻切れとんぼ。何故かモノクロ処理されているところが気に入らないし、演出的に特に冴えたところもあるわけではないので、オムニバスに入っている理由が謎。この手の国際映画祭向けのオムニバスにはよくこういうことがある気がする。