よいお年を!

大晦日なので一年を振り返る。今年は「バカの壁」ということについて本当に色々な局面で考えさせられた年だった。学習回路の閉じた人間は実に害悪である。さて本業の方では近年稀にみるほど生産性の高い一年だったと思う。ムルナウブレッソンという大巨匠についての長めの論考をほぼ同時に書き上げ、さらに同時期にリュック・ムレについての講演をした(来春その続編をアテネで行う予定)。さすがにこれはキツかった。しかもその直後に大学で映画についての講義を毎週行うことになった。これも毎週別のテーマで講演をやるようなものなので結構しんどかった。これによってわかったのは、今の日本社会で映画というのは実にマイナーな位置を占めているのだなということだ。映画を見て単位が取れるので楽だということで百人を超える学生が受講するが、本当に映画に関心がある者は実に少ない。また例年、予備審査の仕事をしている国際映画祭で、自分の担当した作品がコンペでグランプリを取ったのは我が事のように嬉しい出来事だった。しかし楽しいばかりのこの一年でもなかった。中でも最も悲しい出来事は敬愛する友人の安川奈緒さんが早世してしまったことである。詩壇だけでなく、映画批評にとっても大きな損失だと思う。炭鉱のカナリアのように感受性の鋭い人だった。と同時に酔うと実に豪快に笑う人だった。また親しい友人が行方知れずになってかれこれ八ヶ月近くになる。元気でいてほしい。日本社会がこれから良くなることはあり得ないが抵抗していきたい。