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オーディトリウム渋谷閉館について思ったこと

オーディトリウム渋谷がとうとう閉館した。私個人は熱心な観客ではなかったので、見たいものがかかればごくたまに行く程度で、仕事上の関わりとしては大津幸四郎氏の特集上映とケンシロウこと木村卓司氏の作品上映の際にトークをしたくらいか(ただし後者は監督本人に個人的に頼まれたのでノーギャラ)。
歳とともに渋谷から足が遠のき(これは自転車を乗るようになったことも大きい。私の住んでいる板橋からだと帰りに目白の坂を登るのがかなりキツいのだ)、この劇場はおろかヴェーラにもユーロにも今ではほとんど行かなくなってしまった。また私のようなビンボー人にとっては会員割引制度がなかったのもなかなか足が向かなかった理由の一つだった(最後の方でようやく導入されたけど)。
とはいえここ数年における現代日本のインディペンデント映画の隆盛を陰で支えてきたのはやはりこの劇場だったと思う(特に首都圏において)。この事実を後世の映画史家は決して忘れてはならないだろう(マジで)。
支配人の千浦くんとは彼が映画美学校の映写技師をしていた頃からの付き合いで、校舎が京橋(今、東京スクエアガーデンが建っている辺り)にあった時は、よく地下の映写室で当時未公開だった映画の上映会(モンテイロファスビンダーターナーなど)の映写をやってもらった。なので、かれこれ十年くらいになるか。最近も結婚祝いを送ったり送られたりしたが、たぶんお互いそんなことになるとは考えていなかったはず(笑)。
で、話はオーディトリウムに戻るのだが、この劇場がオープンしたのが2011年の震災直後(その前はTSUTAYAか何かの系列の劇場だった)で、震災の日には帰宅困難者のための仮眠所としてまだオープン前の館内を開放したと聞く。経営側の都合も色々あるとは思うが、そんな来歴のある劇場がこの時点で突然打切りになってしまうというのも、3.11をなかったことにしようというような今の社会の雰囲気にどことなくマッチしているようで(単なる偶然だとは思うが)とても皮肉だ。とはいえ、支配人の千浦くんには心から「お疲れさま!」と言いたい。彼のツイートから相当過酷な労働環境だったのではないかと察せられたので。
最後に私事で恐縮だが、拙作『吉野葛』が撮られて今年でちょうど十年目になる。関西では数年前に何度か上映する機会があったのだが、東京ではほとんどお見せする機会のないこの作品をかけてくれそうな場所はどこかと考えた場合、心あたりとしてはやはりこの劇場くらいしか思い当たらない。近いうち千浦くんに話を持ちかけてみようと思いつつ、ぐずぐずしてついに言いそびれてしまった。これで更にまた上映の機会が遠のいてしまったのが実に心残りだ。
(追記)そういえば第二回映画美学校映画祭での『吉野葛』 初上映の際の映写担当も千浦くんだった。以前書いたこともあるが、この初上映は上映後もしばらく客電(劇場灯)がつかなかったことや(上映中、千浦くんと客電担当の人が寝ていたため・笑)、またその直後のトークでの高橋洋さんと村上賢司さんによる拙作への酷評など、この作品のその後の運命を暗示していたようで、忘れがたい思い出である。また京橋の地下で海老根剛さんに協力いただいてこの作品のささやかな上映会をした時も千浦くんが映写を担当してくれた。というわけで何気にこの作品は彼との縁が深い。実は千浦くんと交流するきっかけになったのも、彼の作品を私が批判し、返す刀で彼に拙作を批判されたのがきっかけだった。さらに彼は神戸ファッション美術館ストローブ=ユイレ作品の日本初の特集上映が行われた時の映写技師でもあるので、そういう人に映写をしてもらったのは個人的にとても光栄なことだ。