映画美学校映画祭速報その2

さすがに自主映画を9時間立続けに見ると心身ともに疲れ果てる(「9時間耐久自主映画マラソン」)。しかも二日続けて。去年は一日あたり自主映画が6時間、その後休憩時間を数十分挟んで招待作品が2時間というプログラムだったので、六日連続(!)でも割と苦痛にも感じなかった(何度か途中で抜けたし)。しかも今回は力作揃いである。ただ昨日、今日と見ているうちにある疑問が生じてきた。確かに撮影・照明・録音・美術のレベルは年々格段に上がっている。中には本当にこれが自主制作で撮られたのかという技術的に高水準の作品もある。しかしその技術的なレベルの高さが逆にある種の閉塞感を生んではいないだろうか。早い話、技術的に安定して、「商品」としてパッケージ化された映画が見たければ、そこらの映画館に行けばいいわけで、何もこんな会場まで足を運ぶ必要はない。わざわざこの「苦行」をマゾヒスティックに自らに課しているのは、そこできっとそこらの映画館ではまずお目に掛かることのない何かに出会えるのではないかといった仄かな期待を抱いているからに他ならない。技術的なレベルが高いだけの自主映画、それはテレビドラマや商業映画の「縮小再生産」にしか過ぎない(「よくできた」自主映画ほどつまらないものはない)。そこでなおざりにされているのは「魂」とか「志」という言葉でしか表現できない何かよくわけのわからないものだと思う。個人的にはいきおいそういう映画には点が辛くなる。だからといってそれらを全否定しているわけではなく、もちろんそういう映画を評価する人は沢山いるだろうし、たまたま私がつむじ曲がりでそういう立場には組みしたくないというだけのことだ。セルジュ・ダネーは映画を「ポスター」と「墓碑銘」に二分したが、「ポスター」ばかりが幅をきかせている現在、たとえ少数派であれ、私は「墓碑銘」の側に立ちたいと思う。
『ULTRAMEGA OK』★1/2
『きれま』★
『力』★
『部屋』★
『アカイヒト』★★★★★
『ひまわり』★★
『ピース!』★
『虚空のソラ』●
『犬』★★★
『夏の残り香』★1/2
『フェーン』●
『ON SEEING THE 100%PERFECT GIRL』●
『ママ何してるの?』★
『隣の星は青かった』★
『ULTRAMEGA OK』の作家には期待し続けている。この作家の持ち味は「映画」に対する批評的な距離の取り方にあるのだと思うのだが、今回はその目測を誤ったように見受けられた(間違っていたらスミマセン)。でも面白かったっす。『きれま』『部屋』『ピース!』『ママ何してるの?』は他との相対的な比較のうえ★にしたが、個人的には嫌いではない。こういう作品がもっと増えるといいと思う(そればかりでも困るが)。いずれもこれから物語が展開する一歩手前で不発に終わってしまったのが残念。『夏の残り香』はクリシェ寸前、いやすでにそれに一歩足を踏み入れているのかもしれないが、映画を撮ることを楽しんでいる様子が画面から伝わってきて好感が持てた。何の衒いもないのがよい。ただ技術的な面をなおざりにしすぎているのが難点。『犬』は大いに笑わせてもらった。これを支持するのは自分でも間違っているような気もしないではないが、犬役の女優が素晴らしかったのでおまけ。この作家は意外に実力派のようにも思われる。『隣の星は青かった』は途中まで●にしようかとも思ったが、監督本人の登場が悪くなかったし、最後の脱力加減も悪くない。『ひまわり』は悪くなかった。『力』は★★★★★と★の間で悩んだ末、『アカイヒト』の上映後にやはり★だと確信した。かなりの力業だとは思うが、出てくるイメージに既視感があるので乗れなかった(デヴィッド・リンチダニエル・シュミット寺山修司etc)。黒沢清の出演は反則技(よかったけど)。で、最後に『アカイヒト』なわけだが、見ていて最初の数分間は本当に圧倒された。見た直後は★を100コ差し上げようと思ったくらいだ。この作家の作品の中では、スタッフの実力がようやく作家の想像力に対してかなりいい線まで近づいたという点では、スタッフの努力を称えたい。しかし少し冷静になって考えてみると、そのことが逆にこの作品を世界に対して閉じたものにしているのではないかという疑問も感じる。基本的にこの映画はイメージの強度の連鎖によって成立しているのだが、それがあまりに作り込まれたものである点が個人的には乗れない。例えば、『JLG/JLG』(ゴダール)のように自分の身近にあるものを切り取ることで、圧倒的な画面を成立させてしまう瞬間がかつての作品にはあったように思う。それは最早、ないものねだりなのかもしれない。ぜひこのまま我が道を進んでほしい。ただしその道には興味がないと付け加えておく。そんなこと言っても無駄なことくらい充分承知しているが。
ところで今年は多くの「苦行者」がいるようで実に心強い。お互い来週もぜひ初回から頑張りましょう。
(追伸)ところで今回、皆さん、音楽を安易に使い過ぎてないかな。それとプロないしセミプロの役者を使う時は紋切り型の芝居をさせないように注意しないとね。別にブレッソンのまねをしろとは言わないが(できるわけないし)、彼の『シネマトグラフ覚書』を一読することを強く勧める。ただし絶版なので図書館で探してコピーしてね、古本屋やオークションではバカ値がついているし(写経するのも一興)。以上、余計なお世話でした。あ、それと皆さん、もっと「映画」に対して暴力的であったほうがいいんじゃないの。
映画美学校映画祭2004
http://www.eigabigakkou.com/festival/index.html