RIP SA

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青山真治(1964-2022)による世界映画ベストテン(2012)

素晴らしき放浪者
秘められた過去
ファウスト(1926)
ゴダールのマリア
大砂塵
キラー・エリート
ラヴ・ストリームス
殘菊物語
太陽は光り輝く
現金に手を出すな

https://www2.bfi.org.uk/films-tv-people/sightandsoundpoll2012/voter/1167

「映画は複製の喜びからできていることを私はいつも忘れずにいたいと思っている。映画の魅惑とはリアリズムにあるのではなく、いかに「リアル」を楽しむかにある。この意味で、私は映画に向き合い、映画を作り、映画について話す時、「ファウスト」を常に念頭に置いている。

私の大好きなフォード作品は毎日変わるが、今日は「太陽は光り輝く」を選びたい。それはたぶんステッピン・フェチットの声を聞きたいからだ。このリストの十本の代わりにフォードを十本選ぶこともできただろうが、そうした子供じみた振舞いは慎まなければならない。

初めて「残菊物語」を見た時、四十を過ぎた人間が人前でこんなに泣いていいものだろうかと思った。数ある溝口の傑作の中からこの作品を選んだのは、この罪悪感を償うためである。

今直面している難題を乗り越えるために、私はルノワールの「ユーモア感覚」を必要としている。「素晴しき放浪者」を選んだのはそのためだ。そして、ジャック・ベッケルの作品を見るたびに、彼を知り合いのように感じる。

『秘められた過去』ほど破壊的な映画は他にない。これを見るたびに、様々な感情が掻き立てられる。映画でこのような不確定性を達成することは、私が常に望んでいる最高の目標だが、決して到達することはできない。

『大砂塵』は、いつかリメイクしてみたい唯一の映画だが、それが不可能であることも知っている。それはおそらく私が見ることができる最悪の悪夢に最も近いだろう。この映画をリメイクしたいという私の願望が、自分の悪夢をリメイクしたいという私の歪んだ考えから来ていることは間違いない。

キラー・エリート』ほど人間の尊厳について教えてくれた映画は他にない。そんなことを言っても誰も信じないだろうが、本当だ。私はこの映画のために、小津の作品を諦めたが、その事実はペキンパーの映画に対する私の思いについて多くを語るだろう。

何故だかわからないが、キャメラの前に立つたびに、『ゴダールのマリア』のいくつかのシーンについて考える。それが何であるかはわからないが、この映画とは、何らかのつながり−−愛と憎しみを超えた−−を感じる。人生とはそのようなものだ。

カサヴェテスについて考える時、私はいつも幸福を感じる。自分が映画好きで本当に良かったと思う。私は死ぬ日まで常にそう感じると確信しており、そしてそう感じるつもりだ。『ラヴ・ストリームス』のラスト、カサヴェテスは、裸の男に変身した傍にいる犬を見て微笑む。そんな笑顔ができたらいいなと常に願って生きている。」

(訳:葛生賢)