エディット・スコブのために

a)『地獄のケーキウォーク』『地獄の鍋』『悪魔の下宿人』『青ひげ』(ジョルジュ・メリエス
b)『顔のない眼』(ジョルジュ・フランジュ
a)映画生誕百年というから、今から約十年ほど前(時の経つのは早い!)のNFCのメリエス特集の時に80本ほどまとめてメリエスの作品を上映し、そのほとんど全部を見たはずなのだが、全てきれいさっぱり忘れた。こういうレトロスペクティヴは有り難いのだが、まとめて貴重なものを見てしまうのは、後々考えるととても勿体無い。ダブルバインドである。でこの四本の短編もすでに見ているのだが、見返して新たに衝撃だったのは、『青ひげ』の鍵のかけられた部屋にヒロインが入ると、画面奥に物干し竿のようなものに横一列にずらりと吊るされた白いドレスの七人の花嫁の首吊り死体である。この即物的な描写は凄い。ホラー映画史はここに始まる。
b)確か以前、見た時はスタンダード・サイズだったような気がするのだが(DVDはそうなっている)、アメリカン・ヴィスタで上映された。どっちが正しいんだろうか?しかしフランジュは変な人だ。あの美しいエディット・スコブの素顔を彼女の唯一の主演作であるこの約90分の映画の中で数分しか見せず、それ以外は白いマスクで顔面を覆い、さらに醜いメーキャップをさせるのだから。アンドレ・S・ラバルトが撮った彼のドキュメンタリーでは、エディット・スコブがフランジュにとっての「ミューズ」だったことが語られていて、実際その通りだったと思われるが、そこで見ることのできた彼女のデビュー作『壁にぶつけた頭』での教会で歌う彼女のクローズアップの美しさには本当に心を打たれた。早くこの作品を見ることのできる日が来ることを切に願う。