痴への意志

a)『にっぽん'69 セックス猟奇地帯』(中島貞夫
b)『ポルノの女王 にっぽんSEX旅行』(中島貞夫
a)今日も中島貞夫特集のため、新文芸坐へ行く。夜の回はすでに満席で、立ち見。後ろの壁にもたれかかりながら、『にっぽん'69 セックス猟奇地帯』を鑑賞。タイトルのおどろおどろしさとは裏腹に、タイトルバックが横尾忠則、音楽が八木正生、構成が竹中労ときて舞台が新宿、唐十郎も出演といかにもなドキュメンタリーで、当然、『にっぽん零年』(藤田敏八)、『新宿泥棒日記』(大島渚)などを連想する。なぜか当時、女性の間で美容整形が流行っていたらしく、その手術の模様が記録される。豊胸、二重瞼など。カラーで撮られたその画面のあまりの克明さに目を背けたくなる。二重瞼の手術、メスが瞼を切り裂いて、中の脂肪を取り出す。あるいは鼻筋を高くする手術、鼻孔を切開してシリコンのチューブを入れる。皆、ああいう痛い思いまでしてきれいになりたいのか。どうせ整形だって分かるのに。見ていてだんだん気分が悪くなり、こちらの意志とは無関係に自分の瞼がぴくぴくと痙攣を繰り返しはじめる。ああこれはいかんと思いつつ、なおも画面を見つづけていると、何故か海水浴場のシーンになったあたりで、受信状態の悪いテレビのように目の前をザーッとノイズが走り、このままいくと吐くかぶっ倒れてしまいそうな予感がしたので、いそいそとロビーに脱出し、気分が治まるまで二十分ほど休憩し、再びホールに入ると、先ほどとは打って変わり、画面では、パンツ一丁のM男君が首輪で鎖に繋がれ、女王様の聖水を嬉しそうに開いた口で受け止めていたのだった。あと若者たちが普通に雑踏を歩きながらシンナーを吸っているのが笑えた。
b)こちらもタイトルから連想されるものとは全く関係がない。スウェーデンからやってきた女子大生が荒木一郎に間違ってついていって、そのまま彼の部屋に監禁されてしまい、レイプされるが、やっとそこから逃げ出したと思ったら、さらに悪い連中に輪姦され、再び彼に拾われる。お互い母国語しか話せないので当然コミュニケーションに齟齬が生じるのだが、いつしか二人の間には愛情が芽生え……というお話。これに彼女が知らずに関わった麻薬取り引きの話が絡む。「ストックホルム症候群」を扱った映画は最近多いが、これは日本映画における最も早い例の一つではないか。ただし『コレクター』(ウィリアム・ワイラー)のように主人公が異常性格者ではなく、成りゆき上、そうなっただけで、かつ浪花節的なところが今見るとのどかな感じがする。フェミニストが見たら多分怒るよ。