蜘蛛の戦略

a)『スパイダーマン2』(サム・ライミ
a)ピーター(トビー・マグワイヤ)の叔母を人質にとったドクター・オクトパス(アルフレッド・モリナ)とスパイダーマンが高層ビルの壁面に沿って、上昇と下降を繰り返す、息詰まるような最初の攻防戦を描いた前半の数分間には、ルイ・フイヤードハロルド・ロイドからクーパー&シェードサック、ヒッチコックを経て宮崎駿に到るまでの映画史の全てが濃縮されている。そして両者の二度目の対決の場面では堂々とアルドリッチをやってみせてしまうのだから恐れ入る。同世代のタランティーノティム・バートンに比べても遥かに正統的な映画的素養の持ち主であるサム・ライミの反時代性は、例えば冒頭のバイトに遅刻したピーターがバイクを急停車させる時に、近年のアメリカ映画ではほとんど目にすることのない、ほとんど無償とも思える同軸上のアクション繋ぎをつい採用してしまうあたりにも、顔を覗かせている。それにしても奥行のある演技で悪役を演じたアルフレッド・モリナは何と素晴らしいのだろう。一瞬、正気に返った彼の背中についた人工触手は、『蠅男の恐怖』の苦悩するヴィンセント・プライスの片手でもある。その彼が暴走する核融合装置を抱いて海中へと没していく様は、オキシジェンデストロイヤーを抱えた芹沢博士とゴジラが同一人格の中に溶解しているような崇高さがある。そしてウエディング・ドレスを着て陽光の降り注ぐなか公園を駆け抜けていくキルステン・ダンストの喜びに満ちあふれた笑顔の美しさといったら!その彼女がラストで窓辺にもたれかかって、その視線の先にいるはずのスパイダーマンを見つめているバスト・ショットの素晴らしさに、改めて反時代的な映画作家としてのサム・ライミの演出力の確かさに驚嘆させられる。この映画を見ている最中、五回ほど泣かされた。大傑作。
スパイダーマン 2 デラックス・コレクターズ・エディション [DVD]