関西訪問記 その7

で今日はシネ・ドライブ賞受賞作一挙上映!ということで、早起きしてプラネットへ。
すでに宮川さんも席に着いていた。さすがインディペンデント映画の女神!(「女王」というよりはインディペンデント映画を慈愛に満ちた眼差しで熱心に見守る方なのでこう呼ばせてもらう。たぶん今回の「シネ・トライヴ2009」で私同様、最も数多くの作品を見た一人だと思う。*1しかも自腹で!)
まずは観客賞の『テンロクの恋人 第1話、2話』(渡辺シン)から。うーん。個人的には駄目。監督さんがいい人なのは映画を見ればよく分かるんだけど、すでに他の作品について述べたように、登場人物まで「いい人」しか出てこない映画というのはどう転んでも面白くなりようがないと思う。また決定的なシーンのアクション演出(例えば第一話ならクライマックスで物を投げるところ)が出来てないところが、この作品を映画から遠ざけ、深夜ドラマに近づけてしまう原因の一つであるように思われた。あとこの作者のやりたいことって、本当は第一話のような人情喜劇じゃなくて、第二話のようなアクション・サスペンスみたいなものかと思うのだが(とはいえ第二話も第一話と同様の問題点があるのだが)、いずれにせよ不思議なのは、特に注文仕事でもないのに(てっきり最初はそう思ったのだが、どうも完全自主の模様)なぜ規格化されたような作品を撮ろうとするのか(しかもジャンル映画の上辺だけなぞったような)謎である。
次は特別賞の『紅葉』(山崎樹一郎)。さすがに桝井くんがオススメしてくれた作品だけあって、冒頭、早朝の山道でヒロインが小動物を自動車で轢いてしまうシーンで、フロントガラス越しのヒロイン、小動物のアップ、超ロングで捉えられた自動車、といった画面連鎖には、間違いなく映画を感じた。チェーンソーが出て来た時には「ブルータスお前もか!」といやな予感がしたが、それも杞憂で、互いにほのかな思いを寄せる男女の距離を近づけるためのユーモラスな小道具にしてしまうあたり、かなりの手腕と見た(というか、あんな奇妙なシーン見たことない!)。惜しむらくはもう少しあの二人のその後の愛の行方を見てみたかった。
続いて映画侠区賞の『ぼくらはもう帰れない』(藤原敏史)。この作品は以前、作家自身からいただいたDVDですでに見てはいたのだが、今回のヴァージョンは35ミリ・ブローアップ版。やはり映画はスクリーンで見るべきものであるなーというごく当然の感慨をこの作品に関しても抱いたわけだが、もっともDVからブローアップしたことで細部のピントが甘くなっているような印象も受けた。内容に関して言うと、作家のいうように「即興実験」としての意義を評価するのはやぶさかではないのだが、冒頭の「この映画は全て即興です」的な字幕は不要だと思うし、登場人物のそれぞれの力関係が前半と後半ではがらっと反転するこの作品の構造にあって、一人だけそのポジションをキープし続ける人物(それは映画作家自身によって演じられる)に対しても、やはり留保なき残酷さで臨むべきだったのではないかという疑義は再見した後も残る。またSMの女王様役の女優のインタビュー映像や男優の一人が自慰する姿を背後から捉えたショットなどは、それがあくまで「即興」という看板の元に置かれた映像であるだけに、個人的にはとてもいやな感じを受けた(つまり端的に言って、彼らの人生を「搾取」しているのではないか、という疑問)。とはいえ、恋人と初めて夜を共にしたヒロイン(というか集団劇なので、この呼称は適切ではないかもしれないがあえてこう呼ぶ。というのもこのシーンにおける彼女はそれに相応しく輝いているからだ)の起き抜けの表情は実に素晴らしいし、彼女が新宿地下道から雨の街路に出て、傘を投げ捨てて空を笑顔で見上げるシーンもよかった。
そして待ちに待った大賞の『ダンプねえちゃんとホルモン大王』(藤原章)!上映前の挨拶で宮川さんが「”考えずに身体で感じて”(©ブルース・リー)見て下さい」と言っていたように、頭をカラッポにして体感するのがこの映画に相応しい見方だろう。前作の『ラッパー慕情』、『ヒミコさん』のいずれの彼女も魅力的ではあったが(特に後者のラストの美しさ!)、そこでの彼女の役柄はあくまで男性の登場人物たちの眼差し(=欲望)の対象としてそこに供されており、どこか受け身な存在だったところが不満といえば不満で、なぜもっと彼女を前面に出して映画を作らないのだろうと思っていただけに、この新作はこちらの溜飲を下げてくれた。しかし凄いキャラクター!それを嬉々として演じる宮川ひろみも凄い!個人的には口の片側の角を上げてしかめっ面をする表情が特に好き。またラーメン屋の親父の高橋洋とその客の篠崎誠がインチキ広東語(?)で会話をするシーンはツボ(爆笑した)。高橋さんは『ヒミコさん』に続いて名演技だと思う。とにかく今回見たインディペンデント映画の中で間違いなく最も爽快な作品だった。やっぱ映画はこうでなくちゃね。個人的には今のところ、今年の日本映画ベストワン候補なので、公開されたら皆さんもぜひ見に行きましょう。
というわけで、朝からボリューム満点の映画ばかり見続けたせいで疲れたので(二時間ほどしか寝ていなかったこともあり)、一旦、ホテルに帰って再び仮眠を取る。そして数時間後、打ち上げに参加すべく集合場所のプラネットへ。そこから梅田の繁華街の居酒屋へ行くと、富岡さんらはすでに飲み始めていたのだった。そこで『へばの』のヒロインの西山真来さんとお会いする。最近面白かった映画を尋ねたら『デコトラ★ギャル奈美』(城定秀夫)とのお答えが。今度見てみまっす。映画では分からなかったのだが長身な方だった。ほんわかした感じのとってもいい人です。宮川さんと一緒に彼女にいろいろインタビューし、『へばの』の謎の一端を解明。あと『都会の夢』の公開を控えた高木駿一さんともお話を。
一ヶ月の長きにわたって開催された「シネ・ドライヴ2009」もようやくこれをもって終了ということで、皆さんお疲れの様子だったので二次会はなく(たぶん)、私はプラネットに戻り、桝井くん、宮川さんと彼女の宣材ビデオなどを酒の肴に朝まで熱く映画についてしゃべり場。何か青春っぽかった。ああ、実に楽しい日々であった。と言いつつ、まだまだ関西滞在は続くのだった。

*1:私の場合、さらに深夜の映画マラソンがあったわけだが。