前夜の打ち上げで終電を逃してしまい、タクシーで友人宅まで行き泊めてもらう。で今日は桝井くんと『罠を跳び越える女』の矢田津世子の墓参りへ。ところが墓地の事務所の人も自分のところにこの作家の墓があることをきちんと認識しておらず、とりあえずそうであると思われる場所にお参りする。その後、池袋、御茶ノ水、京橋と回る。桝井くん的にはアテネの松本さんに会えたのが今回上京した中で一番嬉しかった模様。その後、新宿に出て竹本さん、篠原さん、中島くんと夜バスで大阪に帰る桝井くんの送別会をするつもりが、結局、彼を引き止めて朝までコースになってしまう。バス乗り場まで桝井くんを見送って帰宅。ここ一週間ほとんど寝ておらず、しかも最後の二日は家にも帰らなかった位なので、さすがに疲労のピークに達し、夜まで爆睡。おかげで自主ゼミをすっぽかしてしまう。申し訳ない。

未来の巨匠たち その7

a)『何食わぬ顔』(濱口竜介)[○→]◎
『はじまり』『Friend of the Night』(濱口竜介)△
b)『記憶の香り』(濱口竜介)△
『永遠に君を愛す』(濱口竜介)[◎→]○
『何食わぬ顔』に登場するどの顔も素晴らしい。競馬場のシーンで語られる「いじめ」にまつわる思い出話は『PASSION』のあの教室のシーンの原型として興味深いし、そこでの登場人物たちの微妙な居心地の悪さを的確な切り返しで描写しているのは見事。また作家自身も役者として出ているのだが、それも悪くない(個人的には「日活ニューフェイス顔」だと思った)。終盤のモノレールのシーンの長回しの映像と音響は圧倒的だし(しかも時折インサートされるヒロインの表情が素晴らしい)、ラストの「脳内サッカー」のアイデアも面白い(そしてその直後の運動感も)。
「未来の巨匠たち」の最後を締めくくる作品として、この映画作家の最新作『永遠に君を愛す』を見れて本当によかった。「嘘」と「決断」をめぐるこの傑作は『モード家の一夜』と『三重スパイ』の映画作家への追悼のように私には思われた。終盤、ヴェールに覆われた河合青葉がわずかに目を上げるショットには心を打たれたし、ラスト直前の岡部尚と菅野莉央の切り返しには涙を禁じ得なかった。何よりも素晴らしいのは、『PASSION』にあった気取りが取れて、役者たちの演技が皆きちんと「反射」していたことだろう。今はただこの映画作家の前途を素直に祝福したい。
PASSION http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20080529

未来の巨匠たち その6

a)『女たち』『不安』『結婚学入門(恋愛篇)』(佐藤央)△
b)『シャーリーの好色人生』『結婚学入門(新婚篇)』(佐藤央)△
c)『ヒズ・ガール・フライデー』(ハワード・ホークス)◎
寝坊して三宅唱くんの回を見逃してしまう。すでに全部見ていたものばかりだが、申し訳ない。
『女たち』から最新作『結婚学入門(新婚篇)』までの全作品を通して見て思ったのは、音楽を入れ過ぎなんじゃないか、音楽がシーンにマッチしていないんじゃないか、音楽を入れるタイミングが微妙に違うんじゃないかということ。次回は改善を望む。また『結婚学入門(新婚篇)』については、前作より後退しているような印象を受けた(特に脚本面において)。この作品がホークスの『ヒズ・ガール・フライデー』と『赤ちゃん教育』を下敷きにしていることは誰の目にも明らかだが、「下敷き」が単なる「下敷き」に終っているような気が。具体的に言うと「犬」と「カツラ」が有機的に物語構造に組み込まれておらず、単にバラバラなネタに終始しまっているし、「タイムリミット」がなし崩しに意味を失ってしまっているし(これは女長官のキャラ設定と密接に関わっている)、後半、取調室のシーンで科学者が意味ありげな台詞を言う割にそれが物語的に何の意味も持っていないようなのも謎だし(もっともこのシーンで机の隅にカツ丼の容器が置いてあって、一発で取調室だとわかる演出はベタ過ぎるが個人的にはツボ)、彼があっさり釈放されてしまうのもいかがなものかと思う。また直後に『ヒズ・ガール・フライデー』を見てしまったせいか、役者たちの動きにキレがないのも気になった(比較するのは酷だが)。
マイムレッスン http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20070422
結婚学入門(恋愛篇) http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20091118

未来の巨匠たち その5

a)『こんなに暗い夜』(小出豊)○
b)『条理ある疑いの彼方に』(フリッツ・ラング)◎
今日は打ち上げには参加せず、両国で松村くんたちとちゃんこ鍋の会。おかげで会期中初めて終電で帰り、ぐっすり睡眠を取ることができた。ついに四十代に突入。この間の新年会での廣瀬さんとの会話が面白かったので、『シネキャピタル』をキチンと読まなきゃと思って電車の中で開くと、ちょうど『獅子座』(ロメール)が四十歳の誕生日を迎えた主人公の物語であるという記述が目に入り、その偶然の符号に驚愕する。そしてまたこの書物の元となった二つの文章をともに初出時にすでに読んでいたことを突然思い出す。

綱渡り http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20061210
お城が見える http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20061113
こんなに暗い夜 http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20090905
月曜日(『葉子の結婚』の一編) http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20091107

シネキャピタル

シネキャピタル

未来の巨匠たち その4

a)『赤線玉の井 ぬけられます』(神代辰巳)◎
b)『夜ごとの夢』(成瀬巳喜男)◎
会期が始まって連日朝までコースだったので、「桃まつり〈黄金町の宴〉」に間に合わず。片桐×矢部×千浦によるトークショーはなかなか面白かった(「自主映画グランドキャバレー」というフレーズに爆笑)。で結局、今日も朝までコース。
daughters/granité http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20070304
収穫/月夜のバニー http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20090119
みかこのブルース http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20080408
きつね大回転 http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20080530

未来の巨匠たち その3

a)『罠を跳び越える女』(桝井孝則)○
『夜光』(桝井孝則)◎
b)『座子寝』『団地』『赤い束縛』(唐津正樹)○
『喧騒のあと』(唐津正樹)△
『太陽と風に叛いて』(唐津正樹)×
c)『放蕩息子の帰還/辱められた人々』(ストローブ=ユイレ)◎
d)『忘れられた人々』(ルイス・ブニュエル)◎
『座子寝』『団地』はこの作品が大スクリーンで上映されたという事実が画期的。皆あっけにとられていたのではなかろうか。『喧騒のあと』は冒頭でヒロインが携帯を飲み込んだ直後に、それとは別の携帯のアップが入るのだが、このカットが入ることで逆に物語の理解が阻害されているような印象を受けた。『太陽と風に叛いて』は物語がよくわからなかったし、サイレントというより、ただサウンドトラックが欠けた映画のように思えた。物語がわかりにくかったのも、サイレント的に映像だけで表現する工夫がなかったからかも知れない。
罠を跳び越える女/赤い束縛 http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20090327
夜光 http://blog.livedoor.jp/mirai_kyosho/archives/51400683.html
桝井孝則 インタビュー
http://blog.livedoor.jp/mirai_kyosho/archives/51410336.html
唐津正樹 インタビュー
http://blog.livedoor.jp/mirai_kyosho/archives/51409949.html

未来の巨匠たち その2

a)『a perfect pain』『FRAGMENTS Tokyo murder case』(加藤直輝)×
b)『Nice View』『りんごの皮がむけるまで』(加藤直輝)×
『a perfect pain』は最初の三十分はいらないと思った。屋上の暴力シーンには確かに見るべきものがあるかも知れないが、ゲーム的というか、被害者の「痛み」を知らない暴力描写のインフレーションにはひたすらうんざりさせられた。この作家の暴力には思想が欠けている。「痛み」についての感覚が麻痺しているのではなかろうか。ショットという概念の欠如した『a perfect pain』とはうってかわり、「ゴダール・ギア装着後」といった趣の(もちろんこの「ゴダール」をブレッソンなり何なりに変えることも可能である)『FRAGMENTS Tokyo murder case』はファーストショットからして見事なものだが、外見を美しく着飾っても、やはり思想の欠如までは覆い隠せない。『Nice View』も同様。これでこの作家のフィクション作品は全て見ることができた。人気のない夜道を歩いている時、いきなり物陰から人が飛び出してきたら誰だってびっくりするだろうし、目の前の地面に惨たらしく叩き殺された動物の屍体が転がっていたら誰だって厭な気分になるだろう。そしてそのようにして人を驚かせたり、厭な気分にさせたりして、こっそり喜んでいるような人間も中にはいるだろう。結局のところ、この作家がやっているのはこうしたことと大差ないのではないかと個人的には思っている。フレームの外からいきなり大型テレビが降って来たら誰だってびっくりするだろうし、それがベビーカーの上に落ちて中にいた可愛らしい赤ん坊が惨たらしく死んだら誰だって厭な気持ちになるだろう。効果的に機能すれば映画で何をやっても構わないという人間には深い軽蔑しか私は感じない。そしてこれらの作品に対してはやはりリヴェットの「卑劣さについて」(セルジュ・ダネー『不屈の精神』所収)を対置するしかないだろう。
リンゴの皮がむけるまで http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20060728
A Bao A Qu http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20070519
渚にて(『新訳:今昔物語』の一編) http://d.hatena.ne.jp/hj3s-kzu/20070526

不屈の精神

不屈の精神