筒井武文のワンダーランドへ

(以下の文章は2007/1/27にneoneo坐で開催された特集上映「筒井武文のワンダーランドへ」のチラシ用に書いた文章の再録である。アテネ・フランセ文化センターでの特集上映を記念してここに公開する。)

筒井武文のワンダーランドへ》
全ての映画は撮られてしまった。これが長篇処女作『レディメイド』のタイトルに込められた含意である。しかし、であるがゆえに、新たな映画が撮られなければならない。これが映画狂から映画作家へと変貌を遂げた筒井武文がその出発点において抱え込んでしまった認識であり困難である。私たちはリュミエールもメリエスもグリフィスもシュトロハイムルノワールもヴィゴもベッケルもタチもオフュルスもブレッソンもフォードもホークスもウォルシュもロッセリーニヴィスコンティもアントニオーニもドライヤーもヒッチコックもラングもムルナウも小津も溝口も成瀬も山中もマキノも、そしてヌーヴェル・ヴァーグの作家たちも存在しなかったようなふりをして映画を撮ることはもはやできない。だって「見てしまった」のだから。それは映画の「歴史性」を背負い込むということであり、その背中の荷物の重さでは現在、日本で彼に適う映画作家はいないだろう。誠に難儀なことであり、彼が寡作なのもそのことが原因の一端ではなかろうか。「見てしまった」という枷から、キャメラの前にある存在を「見る」ことに向けて、いかに自らを解き放つことができるか。筒井武文の作品を見ることは、この「撮ることの倫理」を彼とともに共有することである。もっとも今述べた「倫理」という言葉から、彼の映画を道学者めいた厳めしいもののように誤解してはならない。見れば分かるが彼の映画はどれも陽気な楽しさに満ち溢れている。この上なく倫理的な存在でありつつ、彼はまたジャン・ルノワールのような快楽主義者でもある。実際、彼ほど女優の演出に心を砕いている映画作家も現在の日本を見渡しても少ないだろう。この一見、同じ人間の中に同居するとは思えない二重性を発見することが筒井映画を見ることの楽しみでもある。そしてそうした二重性とは映画そのものが本来孕んでいるものでもあるのだ。筒井武文のワンダーランドへようこそ!

2010年日本映画ベストテン

映画芸術」や「キネマ旬報」に掲載の2010年日本映画ベストテンの退廃ぶりに憤り、十本を選んだ。ワースト作品はいくらでもあげられるが、いろいろと人間関係が厄介なのでやめておく。各自、拙ブログの過去の記事に当たられたし。なお十本の中では『アウトレイジ』がダントツ。映画作家北野武の完全復活、というよりは新生を言祝ぎたい。
先達に敬意を表し生年順。
『ヌードの夜/愛は惜しみなく奪う』(石井隆
アウトレイジ』(北野武
『花と蛇3』(成田裕介
『バッハの肖像』(筒井武文
『行きずりの街』(阪本順治
『ユキとニナ』(諏訪敦彦/イポリット・ジラルド)
『姉ちゃん、ホトホトさまの蠱を使う』(大工原正樹)
ゲゲゲの女房』(鈴木卓爾
『借りぐらしのアリエッティ』(米林宏昌)
『The Depths』(濱口竜介) 
次点『美しい術』(大江崇允)

Happy New Year !


あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
それでは早速2010年のベストテンを。スクリーンで見たものに限定。
まずは新作映画ベスト。先達に敬意を表し、生年順。
『ブロンド少女は過激に美しく』(マノエル・ド・オリヴェイラ
ゴダール・ソシアリスム』(ジャン=リュック・ゴダール
コルネイユブレヒト』(ジャン=マリー・ストローブ
『エッセンシャル・キリング』(イエジー・スコリモフスキ
『テトロ』(フランシス・フォード・コッポラ
『愛の勝利を』(マルコ・ベロッキオ
サバイバル・オブ・ザ・デッド』(ジョージ・A・ロメロ
アウトレイジ』(北野武
『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』(ジョニー・トー
『何も変えてはならない』(ペドロ・コスタ
次点『ナイト&デイ』(ジェームズ・マンゴールド
クリント・イーストウッドを初めてベストから外した。ワン・ビンは論外。アッバス・キアロスタミは見逃した。

次に旧作映画ベスト。製作年度順。
『渇仰の舞姫』(D・W・グリフィス、1920)
『大雷雨』(ラオール・ウォルシュ、1941)
『バシュフル盆地のブロンド美人』(プレストン・スタージェス、1949)
『銀輪』(松本俊夫、1955)
『春の劇』(マノエル・ド・オリヴェイラ、1963)
忍びの卍』(鈴木則文、1968)
『幕末』(伊藤大輔、1970)
『伝道者ヴァン・ゴッホ 画家は何故画家になるのか』『故郷喪失者ヴァン・ゴッホ 画家は色とかたちに舞う』『自虐の人ヴァン・ゴッホ 画家は耳を失う』『ヴァン・ゴッホの自殺 画家はついに故郷に帰れず』(吉田喜重、1974)
『忠烈図』(キン・フー、1975)
『トラス・オス・モンテス』(アントニオ・レイス、マルガリーダ・コルデイロ、1976)

なお新人監督賞は『美しい術』(大江崇允)に決定!
また『何食わぬ顔』(濱口竜介)、『港の話』(瀬田なつき)が心に残った。個人的にはそれぞれの最新作より偏愛している。

よいお年を!

大晦日なので一年を振り返ってみる。前半はかなり暇だったのだが、後半は鬼のように忙しかった。映画作家としての活動としては、京都みなみ会館でのRSC最後の企画「京都インディペンデント映画の軌跡」にて『吉野葛』を上映、および「シネ・ドライヴ2010」での全作品上映(約二十年ぶりに8ミリ処女短編をお蔵だし)のために舞台挨拶に行き、詩人の佐藤雄一くんが始めた「Bottle/Exercise/Cypher」というイベントの記録班として数年ぶりにビデオカメラを手にした(ついでに新作短編も作った)。映画批評家としての活動としては、『中央評論』の日本映画特集に入魂の「ミゾグチの亡霊たち」が掲載された他、「ジャック・ロジエのヴァカンス」、「第七回京都映画祭」、「ゴダール・ソシアリスム」などのパンフに寄稿(あと何故かキネ旬にもこっそり)。また「シネ・ドライヴ2010」の審査、「第23回東京国際映画祭」の予備選考などをして、ブログに記載した以外に200本近い映画を見た(おかげで死にそうになった)。蓮實重彦先生、黒沢清さんの対談本「東京から 現代アメリカ映画談義」のお手伝いなどもした。映画批評家の赤坂太輔さんと映像/映画の現在について、さらにジョアン・セーザル・モンテイロについて二度対談し、前者は「エクス・ポ テン/イチ」に掲載された。ブリュノ・デュモン、ロマン・グーピル、シャーマン・オンにもインタビューした(デュモンのは明らかに失敗だったが、その教訓を活かして他の二人は上手くいくことができた)。その他、ジュンク堂渋谷店の映画書フェアに協力。今年も関西には頻繁に行った。美術展にもよく行ったが、中でも堀禎一くんと一緒に国立新美術館ルノワール展に行ったのは楽しい思い出。と今年はかなり盛り沢山であった。来年は撮りだめてあるサイファーの記録映像を何らかの形で作品化できたらいいなと思う(あと私の全作品上映をしてくれる劇場を募集中)。というわけで、皆さんよいお年を!

a)『ゴダール・ソシアリスム』(ジャン=リュック・ゴダール)◎
ゴダールの後、千石に移動し、同僚たちと映画忘年会。『紳士は金髪がお好き』(ホークス)をdvdで参考上映してから、「豪華客船の映画史」と題し、桝井孝則くんを交えて二時間トーク。