2011年日本映画ベストテン

先達に敬意を表し生年順。

『孤独な惑星』(筒井武文
大鹿村騒動記』(阪本順治
『kasanegafuti』(西山洋市
『旧支配者のキャロル』(高橋洋
『死ね!死ね!シネマ』(篠崎誠)
『東京公園』(青山真治
『コクリコ坂から』(宮崎吾朗
『魔法少女を忘れない』(堀禎一
『親密さ(ショートヴァージョン)』(濱口竜介)
『適切な距離』(大江崇允)

北野、黒沢、万田の新作の不在が惜しまれる。なお『サウダーヂ』(富田克也)はあえてベストから外した。面白い作品ではあったが、そこに新しさは感じられなかったため。

Happy New Year !


あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
それでは早速2011年のベストテンを。スクリーンで見たものに限定。
まずは新作映画ベスト。先達に敬意を表し、生年順。
『クレイジー・ホース』/『ボクシング・ジム』(フレデリック・ワイズマン
ヒア アフター』(クリント・イーストウッド
『汽車はふたたび故郷へ』(オタール・イオセリアーニ
アンストッパブル』(トニー・スコット
『ザ・ウォード 監禁病棟』(ジョン・カーペンター
奪命金』(ジョニー・トー
『東京公園』(青山真治
SUPER 8/スーパーエイト』(J・J・エイブラムス
ファンタスティック Mr.FOX』(ウェス・アンダーソン
ミッション:8ミニッツ』(ダンカン・ジョーンズ
次点
メカス×ゲリン 往復書簡』(ジョナス・メカスホセ・ルイス・ゲリン

次に旧作映画ベスト。製作年度順。
『掟によって』(レフ・クレショフ、1926)
『仇討膝栗毛』(森一生、1936)
『千石纏』(マキノ雅弘、1950)
『男の顔は履歴書』(加藤泰、1966)
『現代娼婦考・制服の下のうずき』(曽根中生、1974)
ナッシュビル』(ロバート・アルトマン、1975)
『ウィ・キャント・ゴー・ホーム・アゲイン』(ニコラス・レイ、1976)
『魚影の群れ』(相米慎二、1983)
『ある革命のビデオグラム』(ハルーン・ファロッキ、1992)
『最後の手紙』(フレデリック・ワイズマン、2001)

なおコントレ賞こと新人監督賞は今年は該当者なし。代わりに『ジャックの友人』(中島信太郎)に奨励賞を授与します。

よいお年を!

大晦日なので珍しく紅白を見ながら一年を振り返ってみる。今年も色々あった。いやありすぎたといった方が正確だろう。もちろん全ては3.11の出来事に端を発している。9.11がその後の十年の参照点となったように、この出来事も今後の十年の起点となるだろう。しかもフクシマの事故はまだ収束していない。個人的なことをいえば、3.11以来、まだ自室は片づいておらず、寝袋を買って他の部屋で寝ている。片づけ作業をしながら、こんなに多くの本やdvdが自分の部屋にあったことに改めて驚くとともに、一生かかっても読んだり見たりすることの不可能なこれだけのモノが果たして自分に必要なのだろうかと生活を見直す契機となり、それはこれまでの交友関係の見直しにもつながった。またブログからTwitterに全面的に移行した一年でもあった。これだと一々見た映画のタイトルを書かなくても済むし、評価を下さなくてもいいから、作り手からうらまれずに済むという思わぬ利点もあった。今年は映画批評家としての活動がメインで、特に講演が多かった。来年以降は今年色々考えたり行動したことを踏まえて、映画作家としての活動を再開できたらいいと思っている。

『中央評論』276号「特集 映画の現在」

『中央評論』276号「特集 映画の現在」(中央大学出版部)が刊行されました。

http://www2.chuo-u.ac.jp/up/zasshi/chu-hyo-276.htm

まずこの豪華執筆陣を見よ!

http://www2.chuo-u.ac.jp/up/zasshi/chu-hyo-276.pdf

このボリュームでたったの315円(税込)!
これを編集した伊藤洋司さんはホントにエラい!
残念ながら都内の大型書店でも取り扱っているところがほとんどないので、直接、以下のサイトから注文することをオススメします。

http://www2.chuo-u.ac.jp/up/buy.htm

私もドキュメンタリー論「英国に聞け!」を寄稿していますので、よかったら読んで下さい。今年、千石カフェや神戸映画資料館で行った講演を元にしていますが、実はほとんど書き下ろしに近い内容になっています。その他、赤坂大輔さんの現代映画論とか角井誠くんのドワイヨン論とか読みどころは沢山ありますが、個人的に一番感銘を受けたのは、やはり堀禎一くんの「リミッツ・オブ・コントロール」論です。必読。堀くんの映画をもし未見で、この「リミッツ・オブ・コントロール」論を読んで彼に興味を持った人がいたら、伊藤洋司さんの「魔法少女を忘れない」論が絶好のイントロダクションになると思います。また同誌264号「特集 映画と20世紀」には堀くんの「伊藤洋司君との出会い、そして僕の修業時代」、270号「特集 日本映画」には小津安二郎論が入っていて、実に感動的な文章なのでぜひ読んで欲しいです(後者には私の溝口健二論、伊藤さんの堀禎一論も掲載されています)。なので一緒に注文しましょう。

告知です ジャック・ロジエのヴァカンス

ジャック・ロジエのヴァカンス」
8月20日(土)16:00〜17:00頃
アテネ・フランセ文化センター
講演:葛生賢(映画作家・映画批評家)
※入場自由
詳しくは http://www.athenee.net/culturalcenter/program/r/rozier.html

告知です ドキュメンタリー映画を考える@神戸

7/16に神戸映画資料館にて「ドキュメンタリー映画を考える」と題して講演をします。関西にお住まいの方はぜひお越し下さい。
詳しくは
http://kobe-eiga.net/event/2011/07/#a001388

《参加費》 1000円
*ご予約受付中 
info@kobe-eiga.net 宛に、お名前、連絡先(電話)、参加希望日を書いてお送りください。
追って予約受付確認のメールを差し上げます。

告知です 反権力のポジション―キャメラマン 大津幸四郎

大津幸四郎特集最終日6/16(木)のトークショーの司会をします。出席者は大津さん、「フェンス」の藤原敏史、私。岩波映画を経て、小川、土本、佐藤作品の撮影を担当された日本ドキュメンタリー界の生き証人、大津さんのお話が聞ける貴重な機会です。 http://bit.ly/iInbZ3

大津さんが撮影を担当された最新作「フェンス」の話から始まって、おそらく今年の頭にアテネで藤原くん、舩橋くん、私でやったギタイ・シンポの時のように現代日本ドキュの現状についての話にまで踏み込むかもしれません。また大津さんが「40年後の三里塚」を撮った貴重な映像の抜粋も上映予定。

トークの最後にQ&Aの時間を多めにもうけますので、各自、質問をご用意の上、ご参加下さい。「フェンス」に限らず、大津さんが撮影を担当した他の作品についての質問でも構いません。連日トークに参加してQ&Aで誰も質問しないのを見てもったいないと思っていました。最終日なのでぜひ。

不幸にして今回の大津特集には通えなかったけど、最終日だけは行くよというヤングシネフィルのための予習の手引きを以下に。土本・大津コンビの軌跡については、同じく6/16(木)までモーニング・レイト上映中の「まなざしの旅」をオススメします。http://t.co/pKynAos

また大津さんは「大野一雄 ひとりごとのように」(2005)で監督デビューされました。71歳の新人監督が撮ったこの瑞々しい映画は、下肢の自由を奪われた舞踏家に何ができるか、という問いへの感動的な回答となっています。DVDレンタル可。

水俣病の患者さんを見つめてきたからこそ、最晩年の大野一雄を撮れたのでしょう。ダニエル・シュミットの登場人物と化した大野一雄も素晴らしいですが、それとは違う彼がこの作品では見られます。それはドゥルーズ=ガタリ「哲学とは何か」冒頭の芸術家の老いと自由をめぐる議論と深く共鳴しています。

なお大津特集のタイトル「反権力のポジション」は「反体制」とか言う場合の「反」ではなく、そうした二項対立から逃れる「×(バツ)」記号として(つまり「×権力」)理解すればいいかなと個人的には思います。