Love Song あるいはブラッケージへの誘い

hj3s-kzu2004-03-20

a)『Kindering』『I…Dreaming』『Song of the Mushroom』『Garden Path』『マイクロ・ガーデン』『Love Song 1-6』『The Dark Tower』『Chinese Series』(スタン・ブラッケージ
a) 本日は筒井武文氏によるトークショーがあった。ブラッケージへの導入としてとても有益だったので、自分なりに要約してみる。ただし例によってメモを取っていないので、多少の誤りはあるかもしれない。
筒井氏のブラッケージ作品と最初の出会いは『DOG STAR MAN:Prelude』で、これを見た時に、この世にこんな美しい映画があるのかと驚嘆したという。この作品の特徴は画面の平面性にあり、それは多重露光を繰り返していることに由来する。また『DOG STAR MAN』シリーズ全ての要素がすでにこの『Prelude』に現れているのだが、しかしそれは十全にはその姿を開示してはおらず、その平面的なイメージの中に時折現れる山中を進んでいく前進移動のショットが印象的である。であるがゆえに、通常の劇映画のようなパースペクティヴとシンプルな物語性を持った『Part 1』を見た時には多少がっがりした。しかし『Part 4』まで見ていくと、そうした構成を取る必然性があると分かったという。『Part 4』はブルックナーのシンフォニーのようにそれまでに提示されてきた主題が再び回帰する作品である。
同時期に『勝手にしやがれ』でデビューしたジャン=リュック・ゴダールがそのジャンプ・カットによって「カット単位」の編集に革新をもたらしたとすれば、スタン・ブラッケージの新しさは「コマ単位」の編集の可能性に道を開いたことにある。最初期にはジャン・コクトー、マヤ・デレンなどの影響下に作品を撮っていたブラッケージがこの「コマ単位」の編集に着手したのは『Mothlight』からである。35mmフィルムに直接スコッチテープで蛾の羽や葉っぱを張り付け、それをオプチカル・プリンターでコマ撮りしたこの作品では、フレームの連続性というのは破壊されている。通常、私たちが映画で見ているイメージというのは、一秒24コマの静止画(それは現実の半分である。なぜなら私たちは無意識に半分の時間はコマとコマの閾を見ているからだ)を映写することによって連続性のイリュージョンを与えるものなのだが、『Mothlight』においては、本来、不連続なコマは不連続なものとして、逆にコマをまたがって張り付けられた細長い葉っぱは連続的なものとしてスクリーンに供されている。この方法によってブラッケージは「瞼を閉じた時に見える映像」を表現した。
ブラッケージの映画は記憶できない、と筒井氏は言う。それはただ見ることしかできないのだ。いわゆる物語を持たず、コマごとに全く別のものであるような映画をどうして記憶できるだろうか。またブラッケージはこうした実験映画的なものを撮る一方で、ドキュメンタリー寄りの作品、例えば『自分自身の眼で見る行為』や『Eyes』のような作品、あるいは日記映画的なホームムービーのようなものまで撮っている。そこで話はジョナス・メカスとの比較に進んでいった。メカスもブラッケージも手持ちキャメラを多用している点では同じだが、二人の撮影方法は対極的である。メカスは何をフレームに収め、何を写さないかが撮影段階で明確に分かっているのに対し、ブラッケージの場合は自分のフレームの中に何かが入り込んでくるのを待機しているような感じがある。そして編集段階でさらに映像自体に手を加えるのだ。実際に編集台に座って作業をしてみれば分かるが、編集段階である程度、時間をコントロールしたと思っていても、実際に上映してみると自分のコントロールを超えたものが映し出される。ブラッケージの映画というのは、こうした可能性に最大限賭けている。
晩年の『Love Song』シリーズのような作品はただただ美しく、これを見た後は人は絶句するしかない。ブラッケージの映画ではフィルムについたゴミや傷、さらにはリーダーのスヌケ(何も映っていない部分のこと)さえもが美しい。つまり彼はフィルムの物質性を極限まで追求した映画作家である。そして決してフィルム以外では映画作りをしようとはしなかった。彼の映画を見るとフレームの揺れやフィルムの傷なども映画体験の一部なのだということに気づかされる。昨今、行われているような過去の作品のデジタル修復、そこでは傷が取り除かれたり、フレームが安定されたりするのだが、そうした行為は映画とは無関係ものなのではないか、と筒井氏は述べ、トークショーは終わった。

ブラッケージ・アイズ2003-2004 in Tokyo(3/27まで)
http://www.brakhage-eyes.com/program.html