花咲く乙女たちのかげに

hj3s-kzu2004-06-10

a)『細道』(ジョアン・セーザル・モンテイロ
b)『母』『2人の兵士たち』『3人のローマ人の愛』(ジョアン・セーザル・モンテイロ
c)『アガタ』(マルグリット・デュラス
d)『東から』(シャンタル・アッケルマン
a) モンテイロのこの長篇第一作は、ポルトガル民話に題材を採っている。マルクス主義からフォークロアへの転回?しかしこの映画が撮られた地域は当時、ポルトガルでも最も右傾化した地域だったという。おそらく彼の意図としてはポルトガル人の心性の古層に立ち返り、それを批評的な距離をもって見つめるということだったのではないだろうか。「夢」を盗まれた若者がそれを取り返しにポルトガルの大地を遍歴する。仮面を被った土俗的な王が若者と駆け落ちした王女を追って雪原に馬を駆る。初期中編と同様にこの作品においても、ワンシーン=ワンカットを基調とした演出がなされているのだが、アラブ的な風土とギリシャ・ローマ的な風土の奇妙に混淆された地帯の中で展開される物語は、その多くが非職業的俳優によって演じられているであろう農民たちのどこか調和を欠いた長い独白と相俟って、私たちにある種のトリップ感というか、覚醒的な催眠効果とでも形容すべき驚きへと誘う。妖精のような乙女たちが湖で水浴びしている様子を主人公が木陰で窺いながら、彼女たちの衣服を奪いさってしまう、どこか天女伝説を思わせる場面の、彼女たちを捉える『草の上の昼食』(ジャン・ルノワール)にも似たおおらかな視線には、後のモンテイロ作品を特徴づけることになるエロティシズムが早くも横溢している(余談だがこうした艶こそあの愛すべき『ビッグ・フィッシュ』(ティム・バートン)の同様の場面に欠けていたものである)。そしてラストの滝の落ちる岩場での処女懐胎のごとき場面での、乙女が足を広げて横たわる様を頭の方から捉えたショットとそれに続く彼女のクローズアップは、『奇跡』(カール・ドライヤー)の苦悶する若妻のクローズアップや『マリア』(ジャン=リュック・ゴダール)のミリアム・ルーセルのそれのように聖性と卑猥さが同居しているような美しさに満ちている。
b) やはりポルトガル民話に題材を採った三つのテレビ短編。『母』は、嫁に刺し殺された姑の屍体を巡る『ハリーの災難』(アルフレッド・ヒッチコック)のようなブラック・コメディ。『2人の兵士たち』は善人と悪人の2人の兵士の勧善懲悪的な物語。ガスマスクを付けたそれぞれの不気味なクローズアップの長いショットがこの映画を枠付ける。『3人のローマ人の愛』は、書き割りの衝立ての前で古代風の衣装をつけた女性たち(男装を含む)の宮廷風恋愛劇に、書き割りを描いている女性たちの作業風景を捉えた長い固定画面や役者が衣装に着替えるカットなどの舞台裏がインサートされる。