a)『八月の濡れた砂』(藤田敏八)★★
b)『マッチポイント』(ウディ・アレン)★★★★
ここ十年ほどのウディ・アレン監督作品はどれも素晴らしいものだったが(ただし迂闊にも『僕のニューヨークライフ』は見逃した)、自らが主演もするコメディに比べると、それ以外のドラマ作品はどこかノスタルジックな感傷に流れるきらいがあって、全面肯定するにはやや躊躇してしまうものだった。しかし『マッチポイント』は違う。ここに漲る演出の冴えはどうだ。ジョナサン・リース・マイヤーズスカーレット・ヨハンソンと初めて出会う卓球室のシーン、そこに張りつめた緊張感は最後まで緩むことはない。このアレンの変貌にこれまで彼の作品を見続けてきたものは大いに驚かされるだろう。彼が演出家に徹した最高作であり、「女優はこう撮れ」のお手本のような作品。これだけのことができる映画作家は今のアメリカに数えるほどしかいない。