ヤマガタ2009 その3

a)「ナトコのじかん」より
『腰のまがる話』『ディスカッションの手引き』○
『いとしき子らのために』◎
b)『風土病との闘い』(菊地周)◎
c)『秩序』(ジャン=ダニエル・ポレ)○
d)『ダスト ―塵―』(ハルトムート・ビトムスキー)◎
e)『分離の批判』(ギー・ドゥボール)○
f)『スペクタクルの社会』(ギー・ドゥボール)○

今日も朝からナトコ。『腰のまがる話』は、強引にまとめると、農村の民主化のために女性も公民館に行っていろいろ学ぼうねという話。何だか「公民館」がナトコのキーワードのような気がしてきた(公民館マイブーム!)。『ディスカッションの手引き』は、目からウロコのとても教育的な映画。民主的かつ合理的に討議を進めるにはどうしたらいいかが懇切丁寧に説明されている。この種のことは学校教育で全く教わった経験がない。日本人ってディスカッションをするのが苦手なような気がするが(かく言う私も)、義務教育でこの映画を見せれば、かなり状況は改善されると思う(もっと早く政権交代が実現したかも)。社会人の方もぜひどうぞ。ディスカッションのキモは司会と書記(意外に書記は見落とされがち)!あとパネリストは必ずしも独創的な見解を披露する必要はない。いろいろな意見を出し合って、それらを順に検討することが大事。見ていてアメリカの底力ってここにある気がしてきた。『いとしき子らのために』は、珍しく劇映画(東宝製作)。戦時中、村長として率先して息子を戦地に送り出し失った過去のある控えめな小学校用務員(御橋公!)が、熱血小学校教師カップルと共に、教育委員会を牛耳っている地元のボスに立ち向かう話。教育委員って昔は公選制だったのね(調べたら1956年に現在の任命制に変わったらしい)。校舎の屋根の上に登る子供たちの姿は『新学期操行ゼロ』(ヴィゴ)を誰もが思い浮かべるだろうが、その屋根のシーンでの御橋公と子供たちの180度の切り返しにはハッとさせられたし、クライマックスの教育委員選挙の演説会場での御橋公にはただただ涙。こんな素晴らしい映画を誰が撮ったのだろうと思うが、残念ながらクレジットがない。ちなみにヤマガタの公式カタログに載っているこの作品の粗筋は間違っているので注意。

『風土病との闘い』は昨年NFC亀井文夫特集の時に見て傑作だと思った。寄生虫のためにキ●タマが子供の頭ほどの大きさに肥大してしまった老人の映像は何度見てもショッキング(見ながら「タンタン狸のキ●タマは〜♪」が何度も頭の中をリフレイン☆)。宇野重吉の淡々としたナレーションも素敵。『秩序』は期待していたほどではなかった。レネ、デュラス以後といった感じの無人の島内の美しい前進移動ショット(カラー)と、顔が凄まじく変形したハンセン病患者の証言(モノクロ)がカットバックされる。それにしても『パリところどころ』で一番つまらないコメディを撮っていたポレの作風の変化には驚かされた。二つの作品を隔てる八年間に一体何が起こったのか、とても気になる。
ビトムスキーにフラワイでインタビュー(久々のご奉公)することになったので、もう一度『ダスト』を見直す真面目な私。
で、ドゥボールを見るべく上映会場に行くと、昨日の上映が話題になったのか、長蛇の列ができていた。『分離の批判』はどんな映画だったのかもはや記憶にない。まあ相変わらずファウンド・フッテージとナレーションだけでできていたはず。ドゥボールの作品って他の映画と違い、基本的にショットの記憶って残らないのよね。たとえ記憶したとしても、それは別の映画その他からの引用だという。「映画に(反)対して」いるわけだから当たり前といえば当たり前だし、そもそもドゥボールの作品を映画として享受しようとする態度自体が倒錯的なわけだが(とはいえずっと前から見たいと思っていたので、このようなレトロスペクティヴを企画してくれてどうもありがとう)。『スペクタクルの社会』はとりあえずドゥボールがおっぱいマニアだということはわかった。たぶん映画史上最も数多くのおっぱいが出てくる映画ではなかろうか(と書いていて「ナイスおっぱい!」と言う仲村トオルの笑顔が思い浮ぶ)。それはさておき、この作品に引用された『上海ジェスチャー』(スタンバーグ)のジーン・ティアニーのクロースアップの素晴らしさ(ぜひスクリーンで全編見てみたい)!ここでハッキリ言ってしまうけど、ドゥボールの全作品はこのジーン・ティアニーのワンカットに負けている(とはいえずっと前から見たいと思っていたので、企画してくれてどうもありがとう)。会場で堀潤之さんに再会したので、来月の大阪上映のトークショーのオファーをする。
その後、『新宿伝説 渚ようこ 新宿コマ劇場ゲバゲバリサイタル』(かわなかのぶひろ)を見るべくソラリスまでダッシュするが、すでに会場は立錐の余地もなく、ホールの入口通路までびっしり人壁ができていてスクリーンが全く見えない。しばらく音だけ聞いているが、「ここは静かな最前線」を聞けたので満足してその場を去る。
さて香味庵に移動し、本日のメインイベント「山猫争議!」*1。こちらもかなり人が集まっていて立ち見。時々、後から割り込んでくる連中にムカつきながら最後まで我慢して見る。まあそれほど新しい知見は得られなかったが、諏訪敦彦さんが学生時代ぴあフェスで8ミリを上映した時(たぶん『はなされるGANG』。ちなみに傑作)、土本典昭も『原発切抜帖』を同じ枠で出品していた(!)という思い出話には場内爆笑(ただしPFFの公式データには載っていないので、記憶違いかも)*2。なおこのイベントの一番のクライマックスは、その場にいた誰もが指摘する通り、山根氏が司会者を一喝した活劇的瞬間だった。思わず拍手しそうになる。改めてリスペクト。あと討議を聞きながら、今朝見たナトコの『ディスカッションの手引き』を思い起こす。やっぱ日本人は皆この映画見た方がいいわ。終了後、企画者にキチンとカンパ。一日一善。

*1:http://wcnt2009.blogspot.com/

*2:http://pff.jp/jp/old/festival/history.html#1985