幕末に生きる

hj3s-kzu2004-09-19

a)『狂言師 三宅藤九郎』(吉田喜重
b)『幕末に生きる 中岡慎太郎』(吉田喜重
b) 私たちにとって「時代劇」とは、アメリカ映画における「西部劇」のようなものなのかもしれない。優れた日本の映画作家は必ず「時代劇」を撮る。こうしたテーゼが成り立たないだろうか。あの小津ですら「時代劇」でデビューしたのだ。好きな映画作家を50人あげて、「時代劇」ベスト50を作ってみるのも愉しいかもしれない。もちろん誰のどの作品を選ぶかによって、選んだ本人の映画に対する姿勢が問われることになるだろう。現在、活躍している映画作家たちも近い将来、必ず時代劇を撮るに違いないと確信している。北野武は一足早く『座頭市』を撮りあげて惨澹たる結果に終わったが、あれは彼にとってはこのジャンルへの準備運動のようなものだから気にすることはない。かえすがえすも残念なのは相米慎二がこのジャンルをついに撮ることなく逝ってしまったことだ。そして吉田喜重のこの映画は間違いなくそうしたリストの中に位置を占めることになるはずの一本である。夜の宿場の通りを数人の男たちが闇に乗じて駆け抜けていくのを見るだけで胸が高まってしまうのは何故だろう。そしてナレーションとともに映し出される無人の風景ショットの画面の充実度はただ事ではない。見ていて嫉妬すら覚えた。惜しむらくは35mmフィルムでこの作品を見たかった。つまりそれほど素晴らしいということだ。この映画作家のフィルモグラフィーの中でそれほど大きな位置を占めていないからと油断して見逃してしまうと後で必ず悔やむことになるだろう。
吉田喜重 変貌の倫理@ポレポレ東中野
http://www.mmjp.or.jp/pole2/yosidakijyutime.htm