北京滞在記 その5

昨日、一日中クィアー・フィルムばかり見てお腹一杯なので、本日もまたIさん、Nさんと連れ立って北京観光にエスケープすることに。美術館前の停留所でバスを待っていると、そのそばで撮影をしていたテレビ・クルーらしき女性に、この映画祭を取材しているのだがインタビューに協力してもらえないか、と日本語で話し掛けられる。普段だったら絶対協力しないのだが(テレビを全く信用していないため)、異国にいるせいで気楽にOKしてしまう。当局に圧力をかけられているクィアー・フィルムがテーマらしく、質問もそれについて聞かれる。まあ編集でクィアー・フィルムを見に来た観客の一人として扱われるのだろうなと思い、こちらもわざと編集で切りにくいような答え方をしてみる。これからどちらへと尋ねられたので、北京観光へと答えると、親切なことにハイヤーで送ってくれると言う。ただし最終回の上映には戻って、その後またインタビューに応じてほしいとのこと。ラジャー。
国貿でIさんと別れ、Nさんとハイヤーに乗って市内北西部の中関村にある第三極書局を目指す。このあたりは北京のシリコンバレーと呼ばれていて、IT企業が集まっているそうだ。この第三極もオシャレなデパートといった感じ。腹ごしらえに地下の食堂街に入るが、セルフサービス方式でなおかつ支払いにICカードを使わなくてはならないので面倒。こちらは言葉が全く分からないのでNさんの手間を取らせてしまう。ホテル前の朝市の食事に慣れていたため、都心部の物価の高さに吃驚。といっても日本円にするとランチが四百円くらいで食べられるのだが。食べながら中国通のNさんからいろいろと興味深い話を聞く。腹一杯になったところで、上の階に昇りDVDの探索に乗り出す。お目当ては『私たちの十年』(ジャ・ジャンクー)に出ていた女優ティエン・ユアンの出演作『胡蝶』、『呪い』、『江城夏日』だったのだが、一枚もなし。「地球の歩き方」に品揃え豊富な店として紹介されていたのだが、大したことはないようだ。第三極を出て、そばの路地の海賊版屋をいろいろ見て回り、Nさんのおかげでさっそく一枚ゲット。ところがそれからは空振り。途中、道にいた海賊版売りのオバチャンに声をかけると、そばの建物の狭い階段につれていかれ、彼女が靴下の中に隠していたDVDを取り出し「日本のAVあるよ」というので、何で中国まで来て日本のAVを買わなきゃならんのだと追い払う。
それからアキバのラジオ会館を思わせる大型家電量販店に行き、NさんがHDDを買うのに付き合う。日本だと外付HDDは初めから筐体に中身が入った状態で売られているが、こちらでは中身とケースは別々に買う。調子の良さそうな店員のアンチャンが慣れない手つきでHDDをケースに収めるのをハラハラしながら見守る(昔、パソコンショップでバイトしていたことがあるので、彼のスキルが分かる)。
その後、地下鉄で西単まで移動し、北京図書大廈という巨大書店に行く。ここの品揃えはなかなか充実しているが、やはりティエン・ユアンの作品はなし。言い忘れたが、中国では正規版DVDやCDは基本的に書店で売っている。御徒町あたりを彷佛とさせる西単をぶらぶらしてスーパーで買い物などした後、ケンタッキーで夕食。中国人は鳥肉が大好きらしく、街中いたるところにケンタッキーがある。マックより多い(ちなみにマックもチキンバーガーが主力商品とのこと)。Nさんによれば、ケンタッキーのバーガーのセットの値段は、そこで働いているバイトの時給の四時間分くらいとのこと。凄い。贅沢品なのね。
国貿での待ち合わせ時刻まで三十分しかないので、寒空の中、タクシーを拾おうとするがラッシュの時間帯なのでなかなかつかまらない。仕方がないので地下鉄で行くことに。ぜんぜん混んでないじゃんと思ったら、乗り換え駅でどっと入ってくる。四川なまりのケバイお姉ちゃんがそばにいたので、昨日の『Shasha』を思い出す。
国貿からハイヤーで宋荘に戻り(ドライバーのおじさん、グッジョブ)、何とか最後の『Welcome to Destination Shanghai(目的地、上海)』(アンドリュー・チェン)に間に合う。昨日、ジュ・リークンの家で会ったツゥイ・ズエンが若い男の子たちを周りに侍らせて怪演している。自身、有名なクィアー映画作家でもあり、この特集を企画したツォイ・ズエンのことを中年女性とばかり思っていたのだが、後で男性だと聞いて吃驚。それはともかく、劇中、猟奇殺人があったり、変なテレビレポーターの女が出てきたりして、話は中文字幕でよく分からなかったが、映像的にもかなり凝っていて、興味深い作品だった。
約束通りIさんと二人でインタビューに応じてからロビーに降りていくと、クィアー特集の打ち上げの立食パーティーが始まっていた。Nさんが友人の大柄なおじさんを紹介してくれる。何とその人は『最後の木こりたち』のユー・グァンイーなのだった。
パーティー終了後、またもや皆でジュ・リークンの事務所にお邪魔すると、先にチャオ・ダーヨンとリ・イーファンが来ていた。スタッフの女の子が屋台で沢山食べ物を調達してくれ、とても楽しい酒宴が始まる。ユー・グァンイーはかなりいいノドの持ち主だった。