Happy New Year !

さて新年を迎えるにあたって、2003年に見た映画(300本あまり、ただしスクリーンで見たものに限る)の中からベスト10を選ぶことにする。とはいえ、最大の衝撃だったのはやはり『斬人斬馬剣』(伊藤大輔)と『裁かるるジャンヌ(完全版)』(カール・ドライヤー)であり、これに『ナンバー・ゼロ』(ジャン・ユスターシュ)と『曲馬団のサリー』(D・W・グリフィス)と『十字路の夜』(ジャン・ルノワール)を加えてしまうとほぼ何も言うことはなくなってしまうのだが、それではあまりにも「映画の現在」に背を向けた振る舞いのようにも思われるので、気を取り直し、この衝撃を超えるとまではいかないにせよ、それに拮抗しうるだけの強度をそなえた作品を現代映画の中から探ってみることにする。こうした試みに意味があるとしたら、刻々と変化する映画の戦況図の現時点における前線はどこにあるのかを自分なりに見極め、それを自らの映画的試行に送り返すこと以外にはあるまい。というわけで以下、順不同。

ブラッド・ワーク』(クリント・イーストウッド
『青の稲妻』(ジャ・ジャンクー
過去のない男』(アキ・カウリスマキ
『D.I.』(エリア・スレイマン
『家宝』(マノエル・ド・オリヴェイラ
『NOVO』(ジャン=ピエール・リモザン
ドッペルゲンガー』(黒沢清
月曜日に乾杯!』(オタール・イオセリアーニ
『ブリスフリー・ユアーズ』(アピチャッポン・ウィーラセタクン
『ファザー、サン』(アレクサンドル・ソクーロフ
『10話』(アッバス・キアロスタミ
グレースと公爵』(エリック・ロメール
『ミレニアム・マンボ』(ホウ・シャオシェン
『労働者たち、農民たち』(ストローブ=ユイレ

ベスト10といいつつ、十本に収まらなかったのだが、それはそれでよしとする。他にベストからは惜しくももれたが、題名を挙げておきたい作品としては、『キャッチ・ミー・イフ・ユー・キャン』(スティーヴン・スピルバーグ)、『アイデンティティー』(ジェームズ・マンゴールド)、『勇者に休息なし』(アラン・ギロディー)、『アブジャッド』(アボルファズル・ジャリリ)、『オール・トゥモローズ・パーティーズ』(ユー・リクウァイ)、『秋聲旅日記』(青山真治)、『スコルピオンの恋まじない』(ウディ・アレン)、『8Mile』(カーティス・ハンソン)、『パンチドランク・ラブ』(ポール・トーマス・アンダーソン)、『エデンより彼方に』(トッド・ヘインズ)、『ラクダと針の穴』(ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ)、『運命のつくりかた』(ラリユー兄弟)、『キル・ビル Vol.1』(クエンティン・タランティーノ)、『亀虫』(冨永昌敬)、『リリー・オブ・ザ・バレー』(合田典彦)など。

旧作ではもちろん『アガタ』(マルグリット・デュラス)、『ヒア&ゼア・こことよそ』(ジャン=リュック・ゴダール)が素晴らしかった。なお上述のドライヤー、ユスターシュ、グリフィスは彼らの他の作品と置き換え可能であることは言うまでもない。

なおワースト作品候補としては、『座頭市』(北野武)、『H story』(諏訪敦彦)、『5 five』(アッバス・キアロスタミ)などがある。いずれも敬愛する作家である。『チャーリーズ・エンジェル/フルスロットル』(マックG)は映画とはみなされないのでワーストからは外す。

最後におまけとして、映画美学校映画祭2003のベスト5を挙げる。これはもちろん抵抗の意を込めてである。順不同。

『巣』(遠山智子
『CYCLING』(小澤ひろみ&瀬田なつき
『上平 and friends』(木田貴裕)
吉野葛』(葛生賢)
『於筑紫州。』(飯岡幸子)

いずれも「映画美学校」とか「自主映画」という枠に保護されることなく、自らが「映画」であることをつつましくも誇らしげに宣言している作品だと信ずる。なお他に好きな作品として、『TEACH ME IF YOU CAN! 関根編』(関根妙子)と『世界殺人百科』(黄永昌)を挙げておく。

なおこの文章は、来日したポルトガルの映画作家ペドロ・コスタが残していった「小津はパンクだ!」という言葉の周りを旋回していることを付け加えておく。
(追記 2010/01/10)ベストに関してはあえて10本にしぼってみた。