あれもアメリカ、これもアメリカ

hj3s-kzu2004-03-25

a)『役者』『アルコール夜通し転宅』『拳闘』『アルコール先生 公園の巻』『駆落』(チャールズ・チャップリン
b)『Interim』『The Way to Shadow Garden』『In Between』『Reflections on Black』『Daybreak and Whiteye』(スタン・ブラッケージ
c)『スモール・ソルジャーズ』(ジョー・ダンテ
a)ペドロ・コスタが撮ったストローブ=ユイレのドキュメンタリーで「エッサネイのチャップリン」と「エ」のところに強くアクセントを置いてストローブが言うのがとても印象的で、この間のペドロ・コスタの特別講義でも「エッサネイのチャップリン」である『失恋』を見せてもらったので、いままでバスター・キートン党員であった私も宗旨替えしてエッサネイ社時代のチャップリンを見ることに。『役者』ではほとんどがフルサイズの固定画面で撮られているのだが、二つほど移動ショットがあり、それは劇中劇の主演女優とエキストラ役のチャップリンが腕を組んでセットを歩く動きを同じサイズでフォローしたものなのだが、どうしてここだけ移動なのだろう、と訝しく思い、ハッと気づいたのは、この作品は映画の撮影をチャップリンが台なしにするという簡単なストーリーを持っていて、そこでは画面の端に時折、その撮影に使われるという設定のキャメラが写っているのだが、実はこの二つの移動ショットはこのキャメラからの見た目ショットなのだった(確かにそのようなポジションから撮られている)。芸が細かいというか、それを分からせるための配慮が欠けているというか…とにかく最初見た時はこのショットにある種の衝撃を受けた。『拳闘』はボクシングのチャンプと素人同然のチャップリンが対戦し、最後の最後でチャップリンがあわやダウンか…という瞬間にそれまで物語に介入してこなかった彼の飼犬のブルドックが観客席からリングに飛び出し、対戦相手の尻にガブリと食い付いてチャップリンに勝利をもたらす、という映画なのだった。残りの作品も面白かった。
b)『Interim』はおそらくブラッケージの処女作だろうが、あまりの真っ当さに逆に驚く。実際、この作品ではアクションつなぎ、同軸つなぎ、切り返し、見た目つなぎ、など古典的な編集技法のみで出来上がっている。若い男が高架下に降りていくと若い女がちょうど黒いカーディガンを羽織っているところに出くわす、というショットがとてもいい。二人は何となくひかれ合うものをお互いに感じて列車の通過する側に行ったり、河原を散策したりするのだが、そうこうしているうちに夕立ちが降ってきて、彼らは近くの廃屋で雨宿りをする。女が黒いカーディガンを脱ぐと雨に濡れて肌に纏わりついたノースリーブのワンピースと露出した腕が顕われる。二人は長いキスを交わし、その後、男は煙草をふかし、女は悲痛な面持ちになる。画面に映っているのはキスだけなのだが、ここは明らかにセックスが含意されていると思われる。雨が止み、二人はもと来た方向に別れていく…河原で二人が見つめ合うところで二人の両目のクローズアップの切り返しが出て来て、それまでの割と引いた画面連鎖に不安定なものを持ち込むのだが、初期ブラッケージの「目」に対する関心がこの作品でもすでにうかがえる。すなわちこの後、「目」は指でくり抜かれ(『The Way to Shadow Garden』)、孔雀の羽で覆われ(『In Between』)、更にはフィルムの表層を直接引っ掻くことで消去される(『Reflections on Black』)、そして画面からはついに「目」そのものは排除され、あとに残るのはその「目」から見たと思しき寒々とした雪に覆われた窓外の景色である(『Daybreak and Whiteye』)。そしてついにはそうした視覚すらも奪われ、「瞼の裏に映った映像」だけが残るか、あるいは見ることが地獄であるような映像が私たちに与えられることになる。
c)ブラックな「おもちゃのチャチャチャ」とでもいうべき作品。玩具メーカーが巨大軍需企業の傘下に入る。新機軸を打ち出すために精巧なミリタリー・フィギュアを開発するが、この玩具に軍事用のマイクロチップを埋め込んだからさあ大変、玩具たちは二手に別れて戦争を始め、ついには人間たちを襲い始める…
ネットワークのパスワードに「ギズモ」という言葉が使われていることからも分かるように、この作品は『グレムリン』のある意味リメイクとも言える。『グレムリン』がそうであったように、この作品でも戦争を始める玩具たちの一方は人間の味方で、もう一方は人間のコントロールを離れてどんどん増殖していく。戦闘用に改造されたバービー人形たちの顔が邪悪(声はクリスティーナ・リッチ!)。またコマンド部隊の声は、この間の蓮實×中原対談で触れられていたように『特攻大作戦』の面々。いやー面白かった。