ソウル・オブ・マン

a)『映画史 3A 絶対の貨幣』(ジャン=リュック・ゴダール
b)『映画史 3B 新たな波』(ジャン=リュック・ゴダール
c)『手錠〔ロスト・ヴァージン やみつき援助交際〕』(サトウトシキ
d)『21st century girl〔18才 下着の中のうずき〕』(坂本礼)
e)『ソウル・オブ・マン』(ヴィム・ヴェンダース
e) ヴェンダースが偏愛するブラインド・ウィリー・ジョンソン、スキップ・ジェイムス、J.B.ルノアーの三人のブルースマンの生涯にスポットを当てたドキュメンタリー。特にブラインド・ウィリー・ジョンソンとスキップ・ジェイムスの再現映像の場面が素晴らしい。最初見た時、本物の記録映像のデジタル復元かと思ったほどだ。もっとも1920年代の映画ではありえないような画面の連鎖がなされていたのですぐに違うことに気づいたが。だが最初にブラインド・ウィリー・ジョンソン(といっても役者が演じているのだが)が戸口に腰掛けて演奏する様を斜めの軸からフルで捉え、通行人が画面を横切りつつ傍らにおかれた空き缶にコインを投げ入れていくショットは素晴らしい。他にもスキップ・ジェイムスの伝記的なシーンでは、1940年代のフィルム・ノワール的なライティングに1930年代的なデクパージュ、しかもそれに1910年代のバイオグラフ社のサイレント映画のような字幕を入れ、しかもトーキー初期にあったサウンド版の映画のように音と画が微妙なズレを孕みつつ同期しているといった極めて倒錯的な撮り方がなされている(ヴェンダースにとっては、こうしたシーンの撮影は楽しくてたまらなかっただろう)。これらを撮るためにパルヴォ(『リスボン物語』にも出て来た手回しキャメラ)が使われたそうだ。もちろん1920〜1940年代のアメリカ映画において、黒人がこのように特権的な被写体となることは、『ハレルヤ』(キング・ヴィダー)を例外とすればなかったわけで、ということはつまりここでヴェンダースが試みているのは、当時のアメリカ映画が画面から排除してきた対象を当時の技術によって救出した「ありえたかもしれないもう一つのアメリカ映画」である。ここでスキップ・ジェイムスが乗った列車の車窓に広がる風景が『アメリカ』(ストローブ=ユイレ)の最後に見られる風景と共鳴しているように見えるのは偶然ではないだろう。そしてこの映画の白眉はJ.B.ルノアーの発掘された記録映像である。この映像は本当に圧倒的である。ヴェンダースが撮ったこの映画の他のどのショットよりも、1960年代に無名の映画作家によって撮影されたこの記録映像は対象の持つ輝きをシンプルなやり方で保持している。そう、映画は本来もっと単純であっていいはずだ、とこの記録映像は教えてくれる。そのことを一番よく分かっていたのは、この映画にも一部抜粋されている『都市の夏』当時のヴェンダースだったはずなのだが。これら三人のブルースマンの曲をマーク・リボー、ジョン・スペンサー・ブルース・エクスプロージョン、ベック、ロス・ロボスカサンドラ・ウィルソンボニー・レイットといった嬉しくなるような面々がカバーしているのだが(もちろんニック・ケイヴルー・リードといったヴェンダース作品ではお馴染みの面子も出ている)、果して彼らを撮影するキャメラには対象に対してこうした敬意は払われていただろうか。ともあれここに出て来た固有名にピンときた方には一見を勧める。至福のひとときが味わえるだろう。欲を言えばカバーしているミュージシャンたちのライブ映像もぶつ切りにしないできちんと見せて欲しかった。
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チャンネルNECOの10月のラインナップを見て驚く。何と『雪夫人絵図』(溝口健二)が入っているではないか!戦後の溝口作品の中では現在最も見ることが困難な作品なので、この放送は有り難い。他にも石井輝男らの『スーパージャイアンツ』全9作や『日本ゼロ地帯』なども放送。
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