OL性白書 くされ縁

a)『にぎって〔OL性白書 くされ縁〕』(今岡信治
b)『耳を澄ます夏〔痴漢電車 さわってびっくり!〕』(榎本敏郎)
a) 掛け値なしの傑作。身体に何ができるか、つまるところ、このスピノザニーチェ的な問いかけに映画によって答えているのが今岡信治ではないだろうか。この作品で最初に私たちが目にするヒロインを捉えた存在論的とでもいうべきクローズアップから圧倒される。そこで彼女は「しあわせなら手をたたこう」をハミングしているのだが、その曲が基調低音となって、最後に富士の樹海(!)で遭難しかけた彼女とその恋人を救うだろう。「男と女と自動車があれば映画は撮れる」(蓮實重彦はこれを「男と女と何か」と一般的に定式化した)というロッセリーニゴダール的な確信に「ピンク映画」という媒体は最も適したもののはずなのに、多くのピンク映画の監督たちがプロットの面白さなど技巧的なものに走ることでその本質から目をそむけがちな現在、身体のドキュメンタリー(これを映画技法としての「疑似ドキュメンタリー性」と混同してはならない)としての映画に自らの作品を賭けるこの映画作家の存在は貴重である(その探究の果てに『お弁当』の実験がある)。そして最後のベッドシーンの後で解かれた包帯から少しずつ見えてくるものこそ物質化された「奇跡」に他ならない。
今岡信治フィルムコレクション [DVD]