みかこのブルース

どうも最近「ウラ桃ブログ」と化しつつある当サイトだが、今日も「桃まつり」について書きたい。というのもようやく見ることのできた『みかこのブルース』(青山あゆみ)があまりにも素晴らしく、できるだけ多くの人にこの作品を見てもらいたいから。「桃まつり」が終わるまでは、個々の作品について語ることを自らに禁じていたのだが、その誓いを破って『みかこのブルース』について語ってみたい。そのくらい素晴らしい作品なのだ、これは。

この作品が映画初出演となる、みかこ役の中学生、安藤とわ子を捉えた素晴らしいファーストショット。この時、彼女の視線は下方に向けられ、マッチで何かに火をつけているらしいその手元の先はフレーム外にあるので、私たちは彼女が何をしているのかはすぐには判断できない。このエアポケットのような時空間でやわらかな冬の日差しを浴びた彼女の横顔の、少女特有の柔和さでありながらどこか毅然としたその表情に、私たちはしばし魅せられる。まさにこの少女の無表情の持つハードボイルド性が、いつ壊れても不思議ではない脆さを伴ったものであることは、彼女の口から発せられる微かな震えを帯びたやや舌足らずの声の印象から明らかだが、この脆さとハードボイルド性の危うげな均衡がこの作品の魅力を形作る。この少女をヒロインにキャスティングしたことで、この作品の勝利はほぼ決定したようなものなのだが、映画作家としての青山あゆみはそれに満足することなくさらに先へと進む。この素晴らしい画面を小気味よいカッティングで断ち切る冒頭のシークエンスの画面連鎖のリズムから予想できるように、この映画にはいくつもの素晴らしい場面がある。一番感嘆したのは、みかこの父親といい仲にある質屋の看板娘(宮田亜紀が好演)のもとに、みかこが母の形見のペンダントを取り返しに行くシーンである。看板娘の首から少女がペンダントをもぎ取り、逆に平手打ちを喰らい、その場を去った少女をさらに流れ者の男が追うという一連のアクションを捉えた画面には良質の活劇性だけでなく良質の抒情性を感じ取ることができる。そしてその場を締めくくる、男の手から彼女の手にペンダントが渡る瞬間のちょっとした動きとそれを捉えるキャメラと編集の素晴らしさといったら!この橋下の場面のエモーションには思わず涙させられた。まだまだ素晴らしいシーンが少なくとも三つ以上はあり(たった17分の作品なのに!)、その度ごとに思わず涙したのだが、それはこれからこの作品を見る人の楽しみのために語らずにおきたい。最も素晴らしいのはもちろんラストシーンなのだが、小柄な身体に不釣り合いなくらい大きなヘッドホンを耳に当て、外界から身を守るようにしていた彼女が、そっとそれを外した瞬間に何が起きるのか。青山あゆみは、エモーションを一瞬断ち切ることがさらに大きなエモーションを呼びさますことを知っている映画作家である。

〜4/11(金)まで連日21:10よりユーロスペースにてレイトショー上映中。
詳しくは http://d.hatena.ne.jp/momomatsuri/