映画美学校映画祭速報その1

恒例の(?)映画美学校映画祭星取り表を頼まれもしないのに今年もやることにする。最近も某日記で「早●野郎」呼ばわりされたばかりなので、本来なら自粛して即断は避けるべきなのかもしれないが、このサイトを読んで興味をもってくれた人の一人でも多くを観客として京橋の会場に送り込むのが自らの使命だと勝手に思い込んでいるので、あえて顰蹙を覚悟の上で書かせていただく。ドゥルーズ=ガタリも言っているではないか、「速くあれ、たとえその場を動かぬ時でも!」と。もっとも私は「速さ」と「早さ」を混同しているのかもしれない。基本的に判断基準は去年と同じ。ただ去年はあまりに公平さを欠いたかもしれないという反省の上に立って、なるべく公正であろうと心がけはしたが、こちらの不徳のいたすところで偏った判断をどうしても避けられなかった。しかし驚いたのは今年の出品作品のレベルの高さで、これは別に私が身内だからでも、客寄せのために言っているわけでもない(実は今日の口直しのために見るビデオを用意までしていたのだが全くその必要を感じなかった)。それは今日、会場にいた誰しもが感じたことだと思う。映画祭のレベルが年々上がっていく様を見るのはとても喜ばしいことであり、このささやかな星取り表がそれに役立つことを評者としては願わずにはいられない限りだ*1
『不眠』★★★
『鉄の裁き』●
『ジャッキー・マイケルに恋して』●
『光の記憶』★★★★
『バレンシファーレ、最後の恋人』★★1/2
『ベリーナイス、チャーリー』●
『愛の人、イーグ』★★1/2
『へそまげモモの精一杯』●
『パリによろしく』★★★
『STUDY#01』●
『ポイント』★★1/2
『爆撃機の眼』★
風の残響』★★
『不眠』の作家は確実に進化している。最後のダンスのところでは思わず泣いてしまった。『光の記憶』はただただ泣いた。この作家のこれまでの作品に全く乗れなかったので、これは嬉しい驚きだった。ここに映っているもの全てが輝いている。『バレンシファーレ』は悪くない。ただ所々、決定的なミスを犯しているように思えた。『イーグ』の作家には期待し続けている。次回はぜひ活劇を。『パリによろしく』には才能を感じた。ただしこれは8mmフィルムの質感と女優の勝利のような気もしないでもない。『ポイント』のシンプルさは積極的に肯定したい。『風の残響』の作家の志は買う。最後に『爆撃機の眼』について。おそらく一番偏っているのがこの作品についての評価だろう。実は技術的なレベルは今日見た中では群を抜いて高い。そのまま劇場にかけてお金を取れるくらいだ。正直に告白すると、前半までこれは傑作ではないかと思ったほどだ。しかし「映画」として普通にイメージされるものにこれは余りにも似過ぎてはいないだろうか。ただ★を中途半端につけてお茶を濁すのはこの力作の作家に対して礼を失しているように感じたので、あえて一つにさせてもらった。後からやってくる者の存在理由とはただ、すでにあるものを疑い、新しいものを到来させることだと思うのだがどうだろう。「ヌーヴェル・ヴァーグ」とはすでに決着済みの歴史的事件を指すのではなく、新たな波を再開させる不断の反復(異なるものの反復としての反復)のことではなくて何だろうか。そしてそれは1959年以後に映画を撮る人間にとっての唯一の倫理である。閉じた窓からは世界は見えない。もっと世界を爆撃しまくって火の海にして欲しかった。
なお、興味をお持ちになって明日行こうと思われた方に一言。遅刻せず、絶対に初回から見るように。というのも私が個人的に注目している作家の作品が明日の一本目で、しかもたったの五分なので、遅刻すると見逃してしまうから。ただしまだ見ていない作品なので出来のほどは保証しかねる。これは一つの賭けである。あと座席が80席しかないので、遅く来ると立ち見の可能性もある。幸い今日は大盛況でほぼ満員だった。会場がアテネフランセだった時よりも多くの人が見に来たようで喜ばしいかぎりだ。
映画美学校映画祭2004
http://www.eigabigakkou.com/festival/index.html

*1:余談だが、去年の星取り表は作品審査会の席上で参考資料として講師たちに配付されたという冗談のような実話がある。もっともこちらがプッシュしていた数人の作家が選にもれたのは残念だが。