アビエイター

hj3s-kzu2005-03-28

a)『セルジュ・ダネー/ある映画の子供の旅 第一部』(ピエール・アンドレ・ブータン/ドミニク・ラブールダン)★★★
b)『アビエイター』(マーティン・スコセッシ)★★★
b)「あるいは、ハワード・ヒューズの歴史=物語を語る。メルモズよりも勇気があり、ロックフェラーよりも金持ち。『市民ケーン』のプロデューサーにしてTWAのオーナー。まるで、メリエスがガリマール社SNCFを同時に経営していたようなものだ。そしてヒューズ・エアクラフトがCIAの片棒をかついで潜水艦を太平洋の底から引き上げ始める以前には、彼はRKOの駆け出し女優を土曜日ごとに、リムジンで出歩かせた。ただし、時速2マイルで。乳房を弾ませて万が一にも痛めてしまうことのないように。そして死ぬ。ダニエル・デフォーがわざわざロビンソン・クルーソーを生き延びさせたかのようだ。」以上が『映画史1A』の中でゴダール自身によって語られるハワード・ヒューズの生涯である。超低予算、しかもたった五分でゴダールが見事に語りきってしまった物語を、巨額の予算をかけて三時間の物語としてリメイクしたのがこのスコセッシの『アビエイター』である。この比較を見ても、どちらが語りの才に恵まれているかは一目瞭然だろう。ゴダール映画における語りは高密度に圧縮されているのだ。この五分間のエピソードの中にもヒューズ製作の代表作『暗黒街の顔役』(ホークス)、『地獄の天使』、『ならず者』などの映像がインサートされ、ヒューズと浮き名を流した女優たちのファースト・ネームが字幕でずらりと並び、しかもヒューズと浅からぬ縁のあったハワード・ホークスの『コンドル』の原題「ONLY ANGELS HAVE WINGS(翼は天使だけのもの)」がヒューズの顔写真に重ねられたりする冴えよう(いうまでもなくヒューズは飛行狂である)。では、このゴダールの『映画史』に比べて、『アビエイター』が見るべきところのない作品かというと、そういうわけではない。私見では、ここ十年のスコセッシの作品の中では最良の作品である。『レイジング・ブル』や『グッド・フェローズ』、あるいは『カジノ』といい、ショウビズ界隈の人間(しかも破滅型の)をクロノロジカルに描くとき、スコセッシは本領を発揮するように思われる。ただし、高級クラブの踊子を口説く時のディカプリオの青い瞳の美しさがまるで50年代のテクニカラー映画のようにゴージャスなのに反して、『地獄の天使』撮影中の私設飛行場を俯瞰で捉えたロングショットの妙に寒々とした感じや、ディカプリオとのラブシーンではだけるケイト・ブランシェットの染みだらけの背中にはこうしたゴージャスさが欠けていて、こうした細部にスコセッシの映画的才能の限界が現れているような気がしてならない。なお「ミス・ヘップバーン」と聞いて「オードリー」しか思い浮かばない人はまさかいないと思うが、心当たりのある人はぜひ『赤ちゃん教育』か『フィラデルフィア物語』を見てから劇場に足を運んでもらいたい。そうすればいかにケイト・ブランシェットが「ミス・ヘップバーン」の仕草を研究しているかが分かるだろう。しかしこうした実在の人物(しかもフィルムに記録された)を映画の中で演じるというのは、往々にして物真似芸に終わってしまう場合があり、この映画の場合もその例に洩れない。なので彼女に「アカデミー助演女優賞」を与えてしまうのもどうなんだろうかという気がする。また冒頭の「QUARANTINE」という言葉の謎めいた感じは『市民ケーン』における「ローズバット」を意識しているように思われるが、それほどうまくいっているわけではない。なおこの映画に出てくるヒューズの作品の抜粋を見て、彼の監督作としては恥ずかしながら『ならず者』しか見ていなかった私は『地獄の天使』がとても見たくなったことを付け加えておく。

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