世界は誰のものか?

hj3s-kzu2005-11-11

a)『クーレ・ワンペ』(スラタン・ドゥードウ)★★★★
a) ナチスが政権を奪取する前年に作られ、当時にあって「ヒンデンブルク大統領と宗教に対する侮辱のため公開を禁止された唯一の作品」*1であるこの映画と『シチリア!』(ストローブ=ユイレ)とは、ストローブ自身の発言によれば、二つの共通点がある。第一に、『シチリア!』冒頭のオレンジ売りのシーンは、ストローブとユイレがシチリアを旅行した際に目にした光景―値崩れを防ぐために廃棄された山積みのオレンジ―の記憶を引きずっていて、これは『クーレ・ワンペ』の最後の場面で議論の主題となる廃棄されたコーヒー豆の挿話と同じ話であり、第二に、『クーレ・ワンペ』の副題「世界は誰のものか」に対する返答が、『シチリア!』の副題「ひどすぎる世界を侮辱するなんて」というわけだ。*2後者について、彼は「おもしろ半分に」それを付けたと語っているが、しかしこの副題は字義通り受け取るべきだろう。なぜならそれは、コーヒー豆の挿話の場面を締めくくる会話、「それなら、誰が世界を変えるのか?」「いまの世界に満足していないひとたちが!」*3と根底において深く共鳴しあっているからだ。
なおこの映画の舞台となるテント村の名称である「クーレ・ワンペ」の原意は「凹んだ丘」「すき腹」とのことだが*4、これは窮乏による空腹だけでなく、ヒロインの堕胎をも暗示していると思われる。
監督のスラタン・ドゥードウの略歴については以下を参照のこと。
http://defafilmlibrary.com/article_info.php?cArticlePath=1&articles_id=24

*1:G.サドゥール『世界映画史』p.135

*2:カイエ・デュ・シネマ・ジャポン」No.30 pp.131-132

*3:『ベルトルト・ブレヒトの仕事 第六巻 ブレヒトの映画・映画論』p.94

*4:岩渕達治『ブレヒト』p.95